第9話 【私と子供の願い】Ⅰ

 陽が落ち、茜色に染まる境内

 そんな周りの色に負けない程頬を赤らめた紅葉

 自分の口から出た感謝の言葉に恥ずかしくなって神谷君の進む方へと顔を向けることが出来ずにいた

 神谷君が帰路へと向かう中、その足跡とは別にこちらに向かってくる足跡が私の耳を鳴らす

(こんな時間に誰…?)

 先ほどの不良共か?

 いや、聞こえる足跡は一人のモノだ

 私に二人がかりで負けたのにわざわざ一人で来るわけないし、そんな気概はあの不良にない

 父さんか?

 いや、足跡的にもっと若い、否、幼い感じがする

 私がそのように思考を巡らせているとその足跡の人物は自分の隣に並んできた

 小学生くらいだろうか、その子供はポケットから小銭を握りしめると口が半分程塞がっているご利益を得られそうにない賽銭箱と言えない目の前の箱の隙間に上手い具合に小銭を投げ入れた

 そして、二拍手の後自身の願いを大切に祈っている

 その子供を私は横目で見て少し気になっていた

(二拝もなければそもそもこの子参道の真ん中通って来たわよね…?)

 普段なら気にしない

 だからこれはホントただの気まぐれ

 神谷君とのやり取りで生まれたほんの気の迷い


「酔狂ね…こんなボロ神社に来て祈祷するなんて」


 私はその子供に話掛けていた

 急に話しかけられてびっくりした様子だったが、私の服装を見てここの神社の巫女だとわかって安心したのかすぐに返答をしてくる


「えっだめなの…?」


 巫女から言われて不安になったのか弱弱しく不安な口調


「ま、いいけど。叶うといいわね、あなたの願い」


 ただの気まぐれで声をかけただけ、別に言葉のやり取りをするつもりはなかった


「うん…ありがとう…」

「…」


 なんだろうこの形容しがたい感情は

 別に興味すらなかったけど、その反応はまるで聞いて下さいって感じだ

 どうにかしてこの空気を変えないと…なんだかんだ疲れたし、私も帰りたい

 なんとかして帰ろうとして画策している私にその子供は言葉を続ける


「ねぇ、お姉ちゃん、神様ってホントにいると思う?」


 …この子は私に何を聞いているのだろうか?神様がいる?それを神に奉仕する巫女に聞くのか?

 私の答えは単純だ

 ”いるわけない”

 いたとしたら今この瞬間、私はここに存在していないのだから

 しかし、それを今ここで大切に祈りを捧げているこの子供に伝える程私も子供ではない

(どうしたものかな…)

 言葉に悩んでいる私に更に子供は言葉を続ける


「もしいるとしたら兄ちゃんの病気直してくれるかな…?」

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