第4話 【私と父】Ⅰ

 右側頭部にはでっかいたんこぶが出来たんじゃないかと思うくらいの違和感があり、頭の上を風が通り過ぎる度にヒリヒリと鈍い痛みを与えていく

 そもそも、年頃の娘に対して体罰ってどうなのよ!

 だから私は謝らずに逃げたかったのだ。だれが好き好んでこんな痛みを受けたいと思うのだろうか…

 「フンッ!」と鼻息の後、無言で地面を指さし、「わかるよな?」とでも言いたげな父さん

 ええ、わかりますとも。私はその場で両足を揃え直し、ゆっくりと膝を地に着け、背筋の伸ばしたままかかとでお尻を支えるように腰を下ろした。そうSEIZA(正座)である

 父さんは二人が正座をするのを待ち、神谷君が座った後に父さんは重い口を開けた


「貴様、巫女だろう‼賽銭箱を破壊した挙句、賽銭を着服するとは言語道断!恥を知れ‼」


…既にさっき同じようなこと聞いたわ

 父さんの怒号に対し、最初の感想はそれだった。まぁ、予想通りだったし何て返そうかしら

”ふぅー”と一度呼吸を挟み、私は…


「聞いて父さん。私はお金を安全な場所に移動しようとしただけ。無罪よ」


 と、まぁしていたことと同じようなニュアンスのことでお茶を濁すことにした

 隣で神谷君が(ものすごい着服しようとしているけど…)と言いたげにこちらを見ている。憎たらしい顔…

 そんな私の発言に父さんのこめかみがピクって動いた。これ以上は聞く耳持ちそうにないわね…左側頭部にも鉄拳が飛んできそう…


「それに神谷君が来なければこんな事にならなかった。全ての責任はこのもやし野郎よ」


 言い訳の限界を感じたため、責任転嫁で逃げようとする。ま、当然よね。私は悪くないし、この男の責任だし

 当の神谷君は一転して冷や汗ダラダラでこちらを縋るように見ている

 腕を組み、こちらを見ていた父さんは一度溜息をし、


「お前は神の力を不必要に使用しすぎている。巫女の宿命に反する行動は控えろ」


 と、先ほどまでの怒号から諭すような口調に変わった


「私が何に使おうが私の勝手でしょ。くだらない」


 私が望んで手に入れたモノじゃない。それに私は誰かの傀儡じゃない。私の自由だ


「…やはり、巫女としての自覚が足らんようだな」


 そんな私の返答が気に入らなかったのか下ろした手を握りしめ、残念そうに言い放つ

 その時、私は自分の中で何かがプツンっと切れる音が聞こえた


「当たり前でしょ。だって最期はあなたに殺されるだけだもの」

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