第6話 【私と父】Ⅲ

「まさか、あそこまで怒るなんて…」

「言ったでしょ?血も涙もない人だって」


 喧噪が止み、辺りは静寂に包まれた

 台風が去った後のような晴々としか空間

 しかし、そこには確かな傷跡を残していた


「それより、はいこれ」

「…?お金がどうかしたの?」


 私は一枚のお札を神谷君の目の前に差し出した

 先ほど賽銭泥棒…じゃない、バイト代の中の一枚を


「賽銭箱直すわよ。これで適当は木材買ってきなさい。後、お金が余ったらアイスも買ってきてよ。疲れちゃった」


 彼に手渡し、おつかいをお願いした

 どっと押し寄せる疲労感から身体が欲しているモノも一緒に告げ


「はいはい。わかりましたよ。じゃぁ、買ってくるね(…このお金、賽銭箱から盗ったやつだよね?本当に使っていいのかな?)」


 神谷君は受け取ると、何を言っても断れないと察し、拒否することなく歩き出す

 そんな神谷君の背を見送る私

 一歩、また一歩と遠ざかっていき、階段を降りて行く

 彼の背が段々小さく、消えていく

 そして私は感じてしまう


(私は…孤独だ)

(生まれてから愛情なんて注がれたこともなく、ただ利用されるだけの人間でしかない)

(きっと神谷君も絡まれたら助けてくれる。そんな風に利用できる人間としか思ってないんだろう…)


私には何もない

この虚無感に襲われる感覚をこの先後何回味わうのだろう

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