第2話 【私と神谷君】Ⅱ

「ちょっと、喧嘩なら他所でやりなさいよ」


 別に喧嘩の仲裁をしたいわけではない

 この男がどうなろうと私には関係がない

 コンビニに行く感覚でここに訪れるこの男

 ほんと煩わしい

(この集めた落ち葉と一緒に燃えてくれないかしら)

 集めた足元の落ち葉が風で飛んでいく


「そんな‼そんなこと言わずに助けてよ紅葉ちゃん!」


 助けを求める目、縋る言葉

 仮にも女性に助けを求めるとか…

 この男にはプライドがないのか


「あなた男でしょ?だったらそんな間抜け共八つ裂きにしなさいよ」


 喧嘩なんて大半がただの弱い者いじめだ

 力に抗うこともなく遜る

 私は弱い者いじめは当然として

 それ以上に抗うことなく遜る男がホント嫌い


「あぁ?なんだあの女」

「神谷、お前あのコスプレ女と知り合いか?」


 私の言葉が癇に障ったのか、興味が私の方に向いてきた

 タバコに火を着け、金髪が私の正面に寄ってきた

(あー、メンドクサイ…)


「誰だか知らんが俺らはあいつの腐った性根を叩き直している最中なんだよ」


 ”プハァー”っと煙を私に向かって吐き捨てる


「それともテメェも神谷みたいになるか?」


 煙が私の視界を覆う

 一面が真っ白になり、独特の香りが通り抜ける

 そこで私の何かが”ブチっ”と音を立てた

 この男の態度が性格が性根が何もかもが

(気に入らない)

 タバコを再び口にしようとした瞬間、私の手は動いてた

 左手の甲で持っていた右手のタバコを叩き落とした

 金髪は一瞬なにが起きたのかわからず呆気に取られていた

 その刹那、右手で胸倉を掴み


「よいしょぉぉぉ‼」


 ぶん投げた。それはもう盛大に

 柔道なら完全に危険行為で一発アウトだろう

 場所が良いのか悪いのか、私の後ろには賽銭箱があった

 境内に音が響き渡る

 賽銭箱はギリギリ形を保っているが、それはもう目的を遂行出来ないモノとなっている

 賽銭箱に突っ込まれたその男は犬神家のような姿勢になっている

 それはもう第三者目線なら驚きと爆笑の渦だろう

 ゴミを片付けた後のように手を払うように叩き


「はい次」


 その場を駆け、もう一人に向かって

”ガン”

 顔面に向かってドロップキックを決めた

 勢いよく蹴り飛ばされた帽子の男は宙で一回転でもしたんじゃないかってくらい飛んで行った

 それはもう綺麗に


「ぐっ…調子に乗りやがって…」


 蹴られた箇所を押さえ、地面に勢いよく叩きつけられたのもあり顔を痛みで歪ませている

 横たわっているところに追い打ちをかけるように

 賽銭箱で犬神家をしていた金髪を放り投げる


「ギャァァァ!」


 2人は勢い良くぶつかり、悲鳴と衝撃音のハーモニーを奏でる

 こんな汚い音楽ならお金を貰ってもごめんだ

 早々にお帰り願おう


「次来る時は5千円以上の賽銭を持ってくることね。それともまだやる?」


 女にここまでボコされてまだやる気があるなら大したもんだけど


「チクショォォ‼次はタダじゃすまねぇからな‼」


 そんな三下のようなセリフを聞けるとは思わなかった

 次か…最低1万以上は貰えるのかしら

 それなら喜んで来て欲しいものだけど


「あはは…相変わらず紅葉ちゃんはすごいね…」


 引きつった笑顔の彼


「神谷君ももう少し強くなりなさい」

「…はい」


 彼の頬に一筋の汗が伝ったような気がした


「すごいやられたわね。ほら、立てる?」


 地にへたりこんだ彼に対して膝を曲げ、掴まれるように手を差し出す

 彼はその手に対し「ありがとう…」と感謝を述べゆっくりと掴まった。

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