第25話 お姉さんと神木刀

 僕たちは研究所へ戻った。


 研究所は既に全壊していて、研究所としての役割を果たせそうに無い。つまり、ルナちゃんの修理も出来そうにない。


 そうだ、僕たちには時間がない!


 こうしている間にも、ラグナロクは進んでいるのだから!


 終わらせなくっちゃ!!


 モックルカールヴィ伝説はこれからだ!!


 研究所の瓦礫の中から、神木刀・世界樹の愛ラヴドラシルを手にした。


 お姉さんは神木刀を手にすると少し黙り込んで目を瞑っている。


 そしてぱっと目を開くと僕に言うのさ。


「ノア君、ノア君っ!?」


「え、何? どうしたのさ?」


神木刀これ、凄いよ!?」


「そりゃあ、僕が作ったんだから──」


「──そうじゃなくって、神木刀これは、世界樹そのものなんだよ!?」


「どう言うこと?」


「うん、つまりね? 神木刀これは世界樹の一部であって、この世界ユグドラシルと繋がってるの」


「つまり、どう言うこと?」


「この世界で起きている事が手に取るように解るの!!」


「え……さすがにそれは……」


「例えばね?」


「うん」


「レナちゃんやアイザック殿下は生きてる。今はヴァナランドってとこに人々を避難させているみたい!」


「え?そんな事までわかるの!?」


「うん、そしてこれは……え? お……父さん?」


「へ?」


「お父さんが生きてる!?」


「ふぇええええええっ!?」


「う……うぅ……」


「お姉さん?」


「う、うん、分かってる…今はそんな場合じゃない!」


「そうだね、終わらせよう!!」


「うん! ラグナロクを!!」


─ズゥン…ズゥン…ズゥン…


 僕とお姉さんは何かに、否、ユグドラシルに導かれるままに歩を進める。


 世界樹の愛ラブドラシルを片手に!!


─ズゥン…ズゥン…ズゥン…


「ノア君……なんかね?」


「うん?」


「この足音やだなぁ……」


「あははははは! 僕はもともと大きなお姉さんが大好きだから気にしないよ!?」


「もう! 私は気にするの!! 大きなとか余計だからねっ!?」


「お姉さん♡」


 僕は諸手を拡げて目を瞑った。


「もうっ……ノア君♡」


─chu⌒☆


 僕たちは…


 こんな事をしている場合ではなかった!


─ドッゴオオオオオオン!!


 間一髪避けたお姉さんの居た場所に、大きなクレーターが出来ていた。


 その中央にそれは巨大なハンマーが突き刺さっていた。


『避けただと!? 捕捉していたのに……』


「あっぶな!! 何すんのよ!!」


『うっせ! サティアはどうした? お前のところに行った筈だが!?』


「さあねっ!!」


 お姉さんはギガンテスハンマーを拾った。


『あ……!?』


 バカじゃないの?


『お、おい!? ソレ返しやがれ!!』


「返して欲しいの?」


『だから返せっってんだろ!?』


「わかった」


「お姉さん!?」


『聴き分け良いじゃねぇか……ひっ!?』


 お姉さんはギガンテスハンマーを大きく振りかぶって。


「受け取りなさい!?」


『いえ。遠慮させていただきます?』


─バッゴオオオオオオオオン!!


 盛大に魔神アヴァリティアを破壊した。機体中央部が上から下まで丸っぽひしゃげて、バランスを失った左右の身体がグシャリと倒れた。


「あら? ごめんなさい、何か言った?」


 返事がない、ただのガラクタの様だ。


 そのガラクタを半身だけ拾い上げたお姉さんは、ブンと振り回して。


『うわっ!?』


 背後に近付いて、ライディントライデントを振りかざしていた魔神インヴィディアの横っ腹を、薙いだ!


─ドガアァン!!


 上下真っ二つに分断された魔神インヴィディアは、そのままガラガラと崩れて動かなくなった。


─ヴィシッ!!


 お姉さんの腕にロープ状の何かが絡みつく! 


『捕まえた!! セネカ、お願い!』


『心得た!』


「お姉さん危ない!!」


「えっ!?」


─ボバババババババン!!


─キン!


『ちっ! 外した!?』


 見るとセネカの鬼神アイラが長竿を振り抜いていた。


「間に合った!!」


 僕のゴーレムがアイラの足元で爆裂魔法を放ったのだ。そのせいでバランスを崩したアイラの剣筋が乱れた。


 お姉さんの腕を捕まえたのはセミラミスの魔神ルクスディアだ。


 お姉さんは腕に絡まったパニッシャーと呼ばれる鞭を握って、アイラの二の太刀をそれで受けた。鞭がぶつりと斬れて長竿は地面に深くめり込んだ。


『クソッ!?』


─ザンッ!


 ラヴドラシルで長竿を引き抜こうとするアイラの両腕をぶった斬ると、アイラの頭部を蹴飛ばして距離を取った。


『いっ!? 何しやがんだ!?』


─チュンチュンチュン…ズドドドン…


「いったああああああい!!」


「お姉さんっ!?」


 お姉さんの背中を超光学魔導レーザーキャノンが全弾被弾したが、ユグドラシルのマナで満たされているお姉さんの身体に魔法は通じない。とは言え反射的に「痛い」と思ってしまうのは元が人間だからだろうか。


『レーザーが効かない!?』


 撃ってきた方角を睨みつけて確認すると、四つん這いになった魔神がキャノン砲をこちらに向けて尻尾?を振り上げている。足元にはフェンリルが倒れていて瀕死状態だ。


「犬っころ、痛いわねっ!!」


 お姉さんは落ちていたアイラの頭部をむんずと拾って、バアルが搭乗する魔神グラへと投げつけた! グラは咄嗟に避けたがそこには僕のゴーレムが展開した【地獄の門ダムド】が設けられていて、ズブズブと沈み始める。見事な連携だろ?


『うわぁっ!? 何だこれ足が上がらねぇ!?』


『これに捕まりなさい!』


 セミラミスがそう言うと短くなった鞭をグラの方へ伸ばした。


『ありがてぇ…あっ…』


 お姉さんは魔神ルクスディアのお尻を蹴飛ばして【地獄の門】へと突き落とした。


 容赦ない。


 僕は、お姉さんには逆らわないようにしよう、そう心に決めた。


 「私、鬼嫁じゃないよっ!?」


 あれ、僕の心の声って駄々漏れなのっ!?

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