第24話 お姉さんと初めての
嘘だ…
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!
僕を置いて行かないでよ……
お姉さん……
僕は腕の無いルナちゃんに咥えられて、少し離れた祠で雨を凌いでいた。
そう、お姉さんと初めて会ったのはこの場所だった。
うっ……うぅ……
僕はお姉さんが死んだかも知れない焦燥感と、死んだかも知れない喪失感で、頭がおかしくなりそうなのを必死に耐えていた。
ルナちゃんが身体を寄せて僕を慰めてくれるが、ルナちゃんだってボロボロなのだ。
ルナちゃんは悪くないのに、ルナちゃんがそばにいるだけでお姉さんが居ないことの空虚さが増してしまう。
どうしてあのまま僕を放って置いてくれなかったんだ、と、ルナちゃんを責めたりもしたが、ルナちゃんは黙ったまま何も言わなかった。
何も言わずに僕に寄り添ってくれた。
雨は降り続く。
いつまで降るのだろう。
この黒い雨は。
祠を伝って僕にかかる雨は冷たいけれど、僕を包む衣服はまだお姉さんの温もりに包まれていた。
むしろ熱い。
僕の身体が火照っているのか、とにかく身体が熱い。
祠の女神様は雨に濡れて頬を濡らしている。
ああ……本当にお姉さんみたいだ……。
ルナちゃんの身体がピクリと動く。
そして言う。
「ノあく…ン、逃げ、テ!!」
来たか。
─ピピッ
黒い魔神!
『はっ、逃げられると思ったのか? このチビが! うははははははは!!』
……耳障りだ。
ルナちゃんごめんね?
僕はもう逃げない。
このまま逝かせて欲しいんだ。
「何だ? 大人しいじゃねえか? さっきまでの威勢はどうしたオラア!?」
このまま……
それにしても……熱……
『死にさらせえええええ!!』
─ガキン!!
……
……い。
熱い!?
─ドゴゴゴゴ……
大きな地鳴りがする。
僕とルナちゃんを包み込む様に地面がめくれ上がり、そのまま高く高く押し上げられて行く。
ボロボロと土や岩が押し退けられて、地面が裂けるように崩壊し始める。
そして
それが地中から顔を出した。
それは何とも美しい……。
「お姉さん!?」
僕たちはお姉さんの左手の上に乗せられていて、お姉さんの右手は黒い魔神の右手をしっかりと掴んで離さない。
そしてお姉さんの胸元の凹みと僕のポケットの中の熱源が共鳴している。
〘魔石は人の魂を宿し 宿した魂は受肉を求めて器を呼ぶ〙
僕は魔石に導かれるままに動き、彼女の胸の凹みに血染めの魔石を嵌め込んだ。
途端に、彼女の身体の模様が赤く浮かび上がり、石像の様な身体が鮮やかに色付き始め、その大きな瞳に光が宿った!
そして
とても…
とても優しい声が
一番聴きたかった声が
「ノア君!!」
僕の名前を呼んだ!!
「お姉さん!? 本当にお姉さんなのっ!?」
「んにゃ、そうよ! 私の王子様!!」
途端に僕は死ぬ気が失せた!!
まったく失せた!!
そして、僕はお姉さんの手によって、ルナちゃんごとお姉さんの胸の谷間に挟まれた!!
『ルナ!? だと!?』
僕は知っている。
彼女はお姉さんだけど、お姉さんではない。
彼女は……
「モックルカールヴィだ!!」
『モックル……何だ!?』
「お前なんかが知らなくて良い!!」
そうだ、僕は知っている。
どの時代のモックルカールヴィも、元は人だったのだと。
人の犠牲がなくては、モックルカールヴィは現れない事を。
故に僕は認めたくなかった!!
お姉さんが犠牲になるなんてことを!!
例えそれがユグドラシルの意志だとしても!! 僕はそんな現実は見たくはなかったからだ!!
だが
お姉さんはここに居る!!
「ここに居るんだ!!」
「うん、ここに居るよ!!」
『何を言ってやがるっ!! って、放せよオラっ!!』
魔神スペルディアは軽く飛んで右脚で蹴り上げようとしたが、その脚をお姉さんが同じ様に脚で受けると、スペルディアの脚が圧し曲がった!!
お姉さんはそのまま右腕も圧し折って湖に投げ捨てた!
─バシャン!
『クソッ、ルナ! てめぇ何だってんだ!?』
「私は私よ? ねえ、ノア君?」
「そうだ! お姉さんは僕のお姉さんだ!!」
『くそおおおおおお!!』
やけになったのか、魔神は頭から突っ込んで来て、僕の居る胸元へ目掛けて来た!!
「すけべ!!」
─バッチ────ン!!
魔神の頭がぶっ飛んだ!!
残すは身体と左脚だけだ。もう立つことさえままならないだろう。
「反省なさい!!」
お姉さんは片脚を大きく振り上げて。
『うわあああ!? やめろおおおおおお!!』
男で言う所の急所へそれを振り下ろした!!
─グッシャアッ!!
踵落とし!?
魔神の関節に見えていた赤い筋が消えて、ついには動かなくなった。
お姉さんは執拗に、念入りに、二度と起き上がれない様に、ぐちゃぐちゃに踏み潰していた。
ざまあみろ。
黒い魔神はもはや黒い何かでしかない。
いつの間にか雨は止んで、雲の隙間に銀色に輝く月がのぞき、お姉さんの身体の曲線を白々と照らし出していた。
「お姉さん……」
「ノア君……」
お姉さんは僕とルナちゃんを胸元から、とても優しく手のひらに移した。
─ヂャラリ…
ルナちゃんはエーテルが流れきって、ぐったりと動かなくなっていた。しかし、魔石は壊れてないので問題ない。彼女は僕の命の恩人だ。決して死なせたりしないよ?
そして僕はお姉さんへと視線を戻す。
お姉さんの大きな瞳が月明かりにキラキラ揺らめいて、僕の目には入り切らない質量で僕を覗き込む。
そして僕はお姉さんの大きな唇に
キスをした。
ぽってりと
たっぷりと
大好きなお姉さんと
初めてのキス
僕は思ったよ
このままお姉さんになら食べられても良いな、と。
「そんな事しないからっ!?」
声に出てたっ!?
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