第23話 お姉さんと黒い魔神

『やってくれやがったな!?』


 くそう、見誤ったか…。


「ノア君、逃げて?」


「お姉さ……え、ルナちゃん?」


「良いから逃げてください!!」


「そんな……」


 例えオートマタとは言え、ここを何とか出来る算段なんてないはずだ。彼女は自分の身を呈して僕たちを逃がそうとしてくれている。


『よう、色男? 逃げねえのかよ? っても乗り物が無くなったもんな!? わはははは!!』


「それがどうした!?」


『おう、強気に出たな?』


「僕を怒らせた奴はこうだ!」


─ヒュンヒュンヒュンヒュン…


 『四方から強力な熱源反応!? 近い、回避不能だと!?』


─ッドオオオオオオン!


 黒い魔神に直撃した。


 赤と黒が入り交じる爆煙が立ち昇り、頻りに降り続く雨に溶ける。


 暗くてよく解らないが、傷の一つも付いていない、のか?…くそ!


 『……センサーとサブモニターがやられたか?……忌々しい、いったい何だ!?』


 地球人の使う強化装甲アーマーくらいの大きさのゴーレム十体が、黒い魔神を取り囲んだ。


「僕たちドワーフだって戦えるって事を教えてやる!!」


『あん? こんなもん踏み潰しゃあ終わりだろうがよっ!!』


─ズウウン…


「ふふん。僕の作ったゴーレムはそんじょそこらのゴーレムとは違うよ?」


 ゴーレムたちは四散すると、それぞれ魔法陣を展開した。


─リイイイィィィ…ツーッ


『くそっ何だコイツら捕捉出来ねぇ。生き物でも機械でもねえのか?』


─カッ!


 一瞬辺りが真っ白な光な世界に包まれて、色も音も全てが消えた。


─ッバリリリリリリリリリ!


 後から音がして、極大の雷霆が魔神スペルディアを直撃していた!


 機体に打ち付ける雨が、もうもうと白い煙を上げて蒸発してゆく。


「ノア君危ない!!」


─ドン!


 僕は途轍もない力で後ろに突き飛ばされた!


─ガシャンガンガララン!


 戸棚が割れて壊れるくらいに叩きつけられて、僕の頭上の戸棚の、書類やら本やらが降って来たが、僕はなんとか上体を起こした。


 バルコニーが無い!?


 その向こうに黒い悪魔の目が赤く光っている。


『あん? 何だこりゃ……』


 見ると魔神の手にルナちゃんが握られている。


「ルナちゃん!!」


 ルナちゃんは魔神の握力に耐えられず、ボロボロと腕や肩ののパーツを落としている。


『くそっ、ロボットかよ!! 本物のルナは何処へやった!?』  


─グシャ…


 ルナちゃんが虚しく地面に投げ捨てられた。


「あ……あぁ……」


 僕はとても遣る瀬無い気持ちになりながら、ルナちゃんが動かないか見ていた。


『お、何だ? お気に入りのお人形さんだったのか!? 次はお前の番だぜ?』


「うわあああああああ!!」


 僕はゴーレムたちを使って最後の抵抗を試みた!!


 ゴーレムによる魔法陣展開が始まる。魔神の足元に特大の魔法陣が形成された!


地獄へ墜ちろダムド!」


─ズズッズズズ……


 魔神の足元に闇が生まれ、その中からおどろおどろしい声が聞こえて来る。見る見る魔神が闇に引きずり込まれて行く。


『お、おいっ!? 何だコレ!? あ、足が踏ん張れねえ!!』


「そこがお前の行くべき場所だ!!」


『ふ……そうかよ!』


─ジャキン!


 魔神の背中に背負ってるバックパックから金属質な音がして


─ジャララララ…


 黒い翼!?


 それに赤いエーテル線が走ると、魔神全体が淡い光に包まれて身体が一気に宙へ浮いた!?


『よう、ダム……なんだって、よっ!?』


 黒くて大きな手が僕に迫る。


 もう後ろにはあとがない!!


 僕は目を閉じてその時を覚悟した。


 身体が何かに持ち上げられて放り投げられた。


─ズシャッ…


 僕は建物の外の泥濘んだ庭に投げ捨てられた。身体は痛いが何とか動けそうだ。


 そして…


 そして僕は最悪の光景を目の当たりにした!


「お姉さん!?」


「逃げて! ノア君!!」


「そんなの出来っこない!!」


『うはははははははは! 飛んで火に入るルナ嬢!!』


「うぐっ……ぐはあっ!!」


 お姉さんが大量の血を吐いた!?


『何だ?』


「お願い……にげ……て?」


 お姉さんはそう言うと何も言わなくなって……


 僕に向けられた手が力無く垂れて


 目から光が……

 

 消えた……


「お姉さああああああん!!」


『何だコリャ……手加減じぃな? 壊れちまったじゃねえか、よっ!!』


─ッドシャアアァ…


 お姉さんは魔神の手から離れて、僕の眼の前に投げ捨てられた。


「うっ……うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 僕はお姉さんにがっしりとしがみついた。僕の身体がお姉さんの流した血で赤く染め上がって、そしてその温もりに包まれて行く。


 まだ死んでない!!


 こんなに温かいじゃないか!!


 嫌だ!


 僕を置いて行かないでよっ!?


「お姉さん!!」


─ガッ!


「あっ…!?」


 僕は強制的にお姉さんから引き剥がされた。


─ザザッ…


 そして、暗闇に飲み込まれた。



 お姉さん……

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