第21話 お姉さんと七体の魔神
世界は黄昏の時を迎えていた。
空には暗雲が立ち込めている。何本も立ち昇る竜巻が木々を巻き上げて、雷雨に混じって木や岩が降り注いでいる。大地を大津波が街をさらい、大地震が山を割り、地中から火の海が溢れ出る。
次々に地形が変わって行く中、ユグドラシルの人々は逃げ惑うだけで精一杯だ。
肝心の地球人と言えば、殆どの戦力を置き去りにして、大戦艦カリブディスは宇宙に避難していた。
残された地球人は、ドラゴン、ヴァルキュリア、四天王の前に、もはや戦力と呼べるものではなく、ドラゴンが虫でも踏み潰すが如く蹂躙されて行った。
一部、現地人と交流をもって親しくなった者も、全ての因果は彼ら地球人にあるのだと、引きずり出されて無惨にもその命を散らした。
それを見て心を痛める現地人も少なくは無かったが、相手は天変地異そのものだ。誰にも止められるものではなかった。
アスガルドも例外ではなかった。
山ごと城壁が割れてそれを皮切りに一気に国が瓦解した。
レナたちは更なる上空ヴァナランドまで来ていた。
「ああ……帝国が、ユグドラシルが崩れてゆく……」
「アイザック、よく見ておくのだ。これが世界の終末だ。そしてコレを起こした張本人は地球人だけではない、我々も同罪だ。宇宙と言うものが、かくも広大で危うきものか、思い知らされた」
くっ、と喉に息が詰まるが、天帝レナは息子のアイザックを見つめて続ける。
「決して忘れるでない。私も、お前も、この上に立ち、新しいユグドラシルを築かなくてはならないのだ。
決して同じ過ちを犯さない様に、我々はまた選択を迫られ、応えなければならない」
地上に見える土地がまたひとつ消えた。
「しかし、焦ってはいけない。確実に過去より少し、良い国が作れれば良い。急成長した者の末路は、きっとあんな物だろう。ゆっくりと、確実な一歩を前に進める事だ。
この先、同じ事が起こらぬとも限らないのだからな」
「はい、天帝様!」
アイザックは後ろに控える家来に目を遣り、ひとつ頷くと踵を返しジャガーノートに跨った。
「行って参ります!!」
「うむ」
アイザック率いるロイヤルセブンはヴァナランドを飛び立った。避難して逃げ惑う人々を一人でも多く救う為だ。
それを見送った天帝レナもスレイプニルへ跨り、アイザックとはまた別の方角へと駆り出した。
ユグドラシルの地上は、もはや見る影も無くなりつつあった。
そんな中。
─ブオォン…
地表の大気中に揺らぎが生じて、中から光が漏れ始めた。
光はみるみる強くなり、やがてその光を遮る影が現れた。
影はぬるり、と光から抜け出てその姿を露わにする。
それはカリブディスで生み出された新たな新兵器、もとい、神兵器だと彼らは言う。
その名を
頭頂高にして二十メートル以上はある巨体が全七機。
それらは圧倒的スケールでユグドラシルへ展開することとなる。
先ず動いたのはマズローが操縦するアヴァリティアだ。彼の
アヴァリティア目掛けてファフニールが襲いかかる!
─グラッシャアア!!
ファフニールはアヴァリティアの持つ身体と同等程もあるハンマーで潰された。
即死であった。
ドラゴンは元来不死に近い存在だ。マテリアルそのものも強力だが、それにも増してアストラル体はとても強固と言える存在なのである。
ハンマーで叩いたくらいで潰れて死ぬような存在ではないのだ。
残ったドラゴンとヴァルキュリア、四天王は驚愕した。一柱のドラゴンの存在がこの世から否定されたのだ。
『あのハンマーは何だ!?』
ヴァルキュリアのスクルドは思わず言葉にしてしまった。
『解らんが、アレは我々の存在を脅かすモノである事は確かだ』
リヴァイアサンはそう答えた。
『気をつけねばなるまい』
フェンリルは警鐘を鳴らすが、他に何を隠し持っているか知れず、迂闊に手を出せないでいた。
相手は七機。
先頭に立っているのは、サティアが搭乗する黒い魔神スペルディア。大きな機械的な翼を持ち、長い腕の先に鋭い爪がやたらと長く伸びている。
そのすぐ横に立つのは、先ほどファフニールを一撃で仕留めた、マズローが搭乗している緑の魔神アヴァリティア。ゴツゴツとした岩山の様な体付きで、身の丈ほどもある大きなギガンテスハンマーをブンブン振り回している。
反対隣に立っているのは、フリートマンが搭乗する青い魔神インヴィディア。全身鱗の様な装甲で覆われていて、見る角度によって色が変わる。武器は異常に長いライディントライデントを両手で持っている。
その横に立つ、セネカが搭乗する白い魔神アイラは、その額の一本角により鬼神アイラと呼ばれている。日本刀の様な長竿を腰に掲げている。
また、アヴァリティアの向こう隣に立つセミラミスが搭乗する紫の魔神ルクスディアは、パニッシャーと呼ばれる鞭を持っている。全体的な風体として女性型の装甲となっている。
その隣にバアルが搭乗する灰色の魔神グラが立っている。何故か頭が三つあり、後部から尻尾が伸びていて、背中には筒状のキャノン砲が装備されている。
最後にパスカルが搭乗する赤い魔神ピグリティアは、全身隙間無く装甲に覆われて、大盾とバトルメイスを持っている。
夜の帳が彼らを包みこんでいる。明滅する雷霆に彼らの存在が露呈して、その足元に伸びる影がこの世界を鷲掴みしようとしていた。
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