第16話 お姉さんと大きな魚
巨大な要塞戦艦カリブディス。
とても大きな科学力の化け物だと言えよう。
そのカリブディスの少し離れた位置に、アシッド財団の保有する中型調査船の姿があった。
甲板には天帝レナと人質となったルナの姿がある。ルナは甲板に突き出たポールに括り付けられている。
調査船に備え付けられた拡声器でレナは物申す。
当然、ルナの指示で無線での通信も同時に行っている。
『地球からの侵略者よ、よく聞け!
我はこのユグドラシルのミッドガルド帝国天帝・レナ=ヨーグ=ドラグナーである!!』
─キュイン!
レナの展開している防御魔法が何かを弾いた。
『無駄だ! お前達の光学兵器では私の防御壁は壊せないであろう!』
─ガコンッグイイィィ…
戦艦の砲身の先が全てレナたちに向けられた。
レナとルナは額の汗を隠せない。しかし、一歩も怯む気もないのだ。
─キュイイイィィ…
何かの吸気音が聞こえる。その距離で何百と言う砲身から火を放てば、きっと中型調査船など跡形も無く消え去ってしまうだろう。
『この女はルナ=ルミナス=シノミヤだ!! お前達アシッド財団会長の娘であろう!? お前たちは同胞をも殺すのか!? 我は交渉を求む!! 応じぬと言うのであれば撃てば良い!!』
『………………』
カリブディスが発砲する様子はない。
『私はカリブディス艦長のジョン=テミストクレス=ジョーンズです。良いでしょう。ルナを解放するなら攻撃の手を止めても構いません。
しかし、この星の資源はいただきます。何か等価交換出来るモノがあるなら交渉に応じましょう!』
『この星の資源と同等の価値があるものなんて、お前たちにあるものか!? 何かあると言うのならば、見せてみるが良い!!』
『そうか、ではお見せしましょう! やれっ!』
─キュイイイィィ…ドゥクドゥン!!
エイブラハムが放った光線は中型調査船の上空を通り抜けた。
『……どこへ撃っておるのだ』
『ふ、じきに分かるでしょう』
─メキッ……
『───なっ!?』
─バギャギャギャギャガギイイイィィ……ズドゥゥゥン……
ユグドラシルの枝が落ちた。
『そうか、これは宣戦布告ととっても良いのだな!?』
「ああ、そうだよ!」
「───なにっ!?」
─ガキン!
ルナがポールごと強化装甲アーマーで武装した男に攫われた!!
「あなたは、テミストクレス社の……!?」
ルナは相手の顔を見て目を丸くする。
「ああ、お前が見合いを断ったテミストクレス社のCEO・サティア=テミストクレス=ジョーンズだよ。相変わらず良い身体してんじゃねえか……へへっ」
「ルナッ!?」
「天帝様!!」
「やっぱりグルだったのか……コイツが天帝? オバハンじゃねえか? ギャルならまだ生かしておいたものを!!」
─バギャッ!!
サティアは二メートルはある強化装甲アーマーの腕で、甲板に居るレナを殴りつけた!!
─ドン!
中型調査船の甲板の柵を壊して、その遠く後ろで土煙が上がる。
─ガラリ…
レナは何事もなく瓦礫を落として立ち上がる。
「存外しぶてーな、オバハン?」
「その娘だけは返してもらおう!」
「はん、やれるもんならやってみろよ!?」
─ブン…
レナの足元を円を描くように地面が抉れてつむじ風が起こり四散した。
「身体強化ってやつか…?」
レナの髪が彼女の顔を隠しては窺えないが、髪の毛が逆立っていて明らかに今はまでとは違う様子だ。
「非常に遺憾だ!」
─チュン…ッドゴオオオオオ!!
「貴様、レーザーライフルでも隠し持ってんのか!?」
「そんなものは無くても撃てる! お前たち地球人の技術の模倣など、非常に遺憾だがな!!」
─チュン…ッドゴオオオオオオ!!
「危ねぇオバハンだぜ。バリアが無けりゃ、ひと溜まりもねえな……本当にルナを助ける気あんのかよ?」
「サティア、どうしてアンタがここにいるの!? お父様はどうして交渉に出て来ないの!?」
「あん? 俺たちの恋路を邪魔する、あんたんとこの親っさんならもうあの世逝きだぜ!?」
「お父様が!? あんた、何かしたの!?」
「俺じゃねぇよ。お前が殺って逃げたんじゃねえのか?」
「私がそんな事するわけが無いじゃない!!」
「しかし、衛兵の話では言い争いの後にお前が逃げる様に出て行ったと聴いてるぜ?」
「それは……そんな……」
ルナは言葉を胸から込み上げてくる何かを喉でで詰まらせて、そのまま嗚咽と一緒に吐き出した。
「うう……お父さん……」
目から大量の涙が止め処なく溢れて、両手でそれを受け止める様に顔を塞いだ。
「わあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
ルナは泣いた。
ギルヴァとの最期は喧嘩別れだった。
多くの後悔と多くの喪失感が彼女の心を殴打する。
それを見ていたレナがハッとする。
「お姉さんを!!」
サティアが声のした方へ目を遣ったが、そこには風だけが残されている。
─バクッ!
「泣かすなあああああああ!!」
サティアは背後の声に振り向こうとして気付いた。
ルナが居ない。
そして声の発生源にサティアが目を遣ると、ギョッとした目をして口を開けた。
大きな魚が空を泳いでいた。
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