第12話 お姉さんとアルマゲドン

 『天界ヴァナランド』


 そこはユグドラシルの天空に在り、虹色の光に満ちたこの世の楽園。


 天空に在りながら百花繚乱に花々が咲き乱れ、迦陵頻伽セイレーンが囀る極楽浄土ユートピアである。


 天帝レナは、そこで神王オーディン、魔王ロキ、竜王バハムートと邂逅する。


 それぞれ、申し合わせた訳でもなく、それが必然であるかの様にそこに集まったのだ。


 先に来ていた王たちがレナに目を遣る。


 レナは臆することなく歩を進め、七色に煌めく光の席にどっかと座った。


 四者が揃えばそれは会合の始まりを意味する。


 そして何も云わずとも会合の目的はひとつだ。


 人の王レナはギリッと奥歯を鳴らして口を開く。


「言い訳はしない。されどこれはユグドラシルの危機である!何も言わずに力を貸して欲しい!」


 天帝レナが開口一番声高に言った。


 三柱の王は徐ろに頭を上げて言葉を紡ぐ。


─人の王よ力は貸そう


─しかし


─力の代償は解っておるのか?


─我らの力は人知を超えた力故


─手加減などは出来ぬ


「無論、全て受け入れる所存だ!」


─ならば人の王よ


─成すべき事を成せ


─我らは我らの意のままに


─ユグドラシルの意志のもと


─異界のモノを排除しよう


「協力を感謝する」


 天帝レナはすっくと立ち上がり、深く深く頭を下げた。


 バハムートは目を光らせて唸りをあげる。


 すると、ユグドラシルに点在する、悠久の時を眠るドラゴンリヴァイアサン、ファフニール、ニーズヘッグ、が目を覚ました。


 また、ロキは漆黒の光を放ち、フェンリル、ヨルムンガンド、ヘル、ヴァーリの四天王を闇より解き放った。


 神は戦乙女ヴァルキュリアスクルド、ヒルド、レギンレイヴ、シグルーンへ啓示を与えた。


 それらは全てメギドの丘に集結し、ユグドラシルの嘆きに怒りを露わにした。


 そう、『アルマゲドン』が始まろうとしていた。


 

 その頃、戦線ではアイザックを先頭にロイヤルセブンが猛威を振るっていた。


 敵艦隊を次々に駆逐してゆく。


─グオ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙!!


 ジャガーノートが敵艦隊土手っ腹をいとも簡単に圧し折って行く。


 その身体強化は格別で鉄でも難なく破壊してゆく。しかしジャガーノートの脅威は物理に留まるものではない。その口から放出される火炎魔法はもはや火炎などと呼べるものでは無い。

 それこそ鉄をも溶かす光線の様に高温度のビームとなって敵を焼き尽くす。その後ろの岩肌をも熱で溶けて赤く燻っている。


 しかしこの頃の地球軍は、魔石の導入により魔導装甲兵と言う新たな武装を手に入れていたのだ。


 人が浮遊し自在に空を飛ぶ。


 また、魔導により光学兵器の威力が格段に跳ね上がっていた。

 

 魔導装甲兵より光線が放たれる。


─ドゥクドゥン!


 ロイヤルセブンの赤竜の翼に穴が開くが、バランスを崩すのみだ。騎手が再生魔法で傷を塞ぐ。

 赤竜の背に乗る騎手は謂わばサポーターである。戦力としては赤竜で十分なのだ。その戦力を活かすも殺すも騎手の腕となる。

 騎手は赤竜のエンハンサーであり、ヒーラーであり、ジャマーなのだ。ロイヤルセブンの騎手はそのエキスパートである。


「墜ちろ、羽虫どもっ!!」


─キュドゥン!


 赤竜の口から一閃の光が宙を薙ぐ!


─ドゥグググググググゥゥン!


 爆炎が横並びに広がり、ボロボロと燃えた鉄屑が墜ちてゆく。


 戦線はロイヤルセブンが圧倒しているかに見えた。


 しかし次の瞬間、そのロイヤルセブンですら絶望感を覚える影がすべてを飲み込む。


─グゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 頭上に大きな影が差す。


 そうだ、あの日見た光景がまさに眼の前にあった。


 街が宇宙から降りてきた。


 地球軍による大型艦隊の襲来だった。しかも船体が明らかに違う。以前見たものより大きく、そして禍々しく黒光りした巨大な要塞のエイだ。

 このまま着陸するだけで帝都は壊滅してしまうだろう。


「これじゃあ羽虫はこちらじゃないか!?」


「あんなモノにどうしたら勝てるのだ!?」


「皆のものよく聞け!! ここは一度引いて立て直す!」


「しかしアイザック様! 帝国城はもはや……」


「ユグドラシル大同盟は成されている! 目指すはアスガルドの山頂! アスガルド城だ!!」


「「「「「「はっ!」」」」」」


 ロイヤルセブンは帝国を捨てて撤退した。


 帝国民へは疾うの昔に避難命令は出している。既にもぬけの殻だと思いたい。

 遣り切れぬ思いを胸に抱きながらも、兵を無駄に散らせたくない思いを優先して撤退を選択した。


 もちろんアイザックとて、敵と同程度の強さであれば、そんな選択はしない。その差が歴然であるからこそ選択せざるを得なかった。


 撤退したアイザックはアスガルドの山頂から帝国を見下ろす。


 帝都は見る影も無く崩壊して、街のあちらこちらから黒い煙があがり、真っ赤に燃え上がっている。


「母上は無事に逃げおおせたであろうか……」


 アイザックは歯を食いしばり、帝都の外れの黒い鉄の塊に目を遣った。

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