第11話 お姉さんの手紙
そして僕は手紙を開いた。
─大好きなノア君へ─
ノア君、突然いなくなってごめんなさい。私は一度、アシッド財団へ連絡を取って接触を試みるよ。
危険かもしれないけれど、何もせずに指を咥えて見ている自分に耐えられなかったの。
昨日のプロポーズ、本当に嬉しかったんだよ? だけど、私はこのままあなたに甘えて、幸せになるわけには行かないよ。だって、帝国では多くの犠牲が出ているんだもん!
もし……。
もし、私がアシッド財団を説得出来て、戻って来ることが出来たなら、その時は喜んで君のプロポーズを受けるよ!!
でも、一週間経って私が戻らない時は、私の事は忘れてね?
そして、あなたはあなたの幸せを探して欲しい。
だけどね?ノア君。 私、怖い。最後にこんな事書いたら、ノア君が心配するのは分かってる。もしかしたら泣いてくれてるかも知れないと思うと、胸がぎゅうぎゅう締め付けられる!
恋しいよぉノア君。私、ノア君のこと大好きだもん。本当に大好きだもん。あの時のプロポーズ、本当に嬉しかったんだもん。
だから!
私は絶対に説得して帰って来るよ!
そして、堂々と君のプロポーズを受けるんだよ!!
だから待っててね!? 絶対に待っててね!?
─宇宙より愛を込めて ルナ─
…………………。
お姉さんは少なくとも僕の事を想ってくれている。
そして
それを信じて待つしかない。
待つしかない。
さみしいな。
さみしい。
かなしい。
もう消えたい。
消えて無くなりたい。
……………。
そうだ。
そうしよう。
ここに居る理由も無くなったし。
お姉さんを待つだけならココにいる必要はない。
もう良いよね?
その日
僕は消息を絶った。
現在の戦況と言えば、ユグドラシル軍と地球軍とは拮抗していた。
地球からは中型の艦隊が次から次へとやって来る。
地球軍は日増しに強化装甲アーマーが強くなり、魔導ギアと呼ばれる新たな武器が開発されたみたいだ。
そしてアンドロイド兵が試験的に登用さて前線へと進み出ている。
対するユグドラシル軍の竜騎兵や巨人族は疲弊して少しずつ後退つつある。ヘカトンケイルや魔法使いも物量で圧されると消耗戦となる。
そこでダークエルフの軍勢が前線へと進み出たのだ。戦線を支えたのは精霊術だ。
人々に幻惑を見せて惑わし、混乱しているところを叩いた。
また、ドワーフが作る魔法剣に地球軍が使っているの超光学化学兵器を起用したり、光学迷彩マントを使って姿を眩ませたり、超電磁砲を魔法弓で再現したりと、その才を遺憾なく発揮した。
その頃、帝国では。
「天帝様、行って参ります!」
「そうか……」
「はい。ドラグナー家の誇りにかけて、必ず生きて戻ります!」
「そうか……」
「お前達」
─はっ!
天帝の声掛けにロイヤルガードが一斉に応える。
「控えよ」
─はっ!
そう言うとロイヤルガードはドアの外へ出た。
─ガバッ!
「母上……」
「アイザック!」
「母を許せ! 斯様な事態に陥ったのは我のせいじゃ! 迂闊にも地球人を信用した我が……すまぬ!」
─グッ!
アイザックが腕に力を入れる。
「母上、申し上げたでしょう?」
「……?」
「ボクは生きて戻ります、と」
「そうじゃな! 絶対じゃぞ!」
「はいっ!」
「うむ。お前も父さんに似ていい面構えになったのお。うむうむ、行って来い!」
「はっ!」
アイザックはそう言うと、一泊置いて踵を返した。そしてそれきり、振り返らずにその場を去った。
レナはその後ろ姿を愛おしそうに見送ると、豪奢なマントを翻して転移門へと進み出た。
その目には確かな決意と、強い輝きに満ちていた。
一方アイザックは駆け足をとり、自分が率いる竜騎兵隊へと向かった。
竜騎兵が従える竜は
アイザックの騎乗する竜の名を『ジャガーノート』と言い、『止めることの出来ない巨大な力・圧倒的破壊力』を意味する。
アイザックはジャガーノートの頬を一撫ですると、目を真っ直ぐに見つめて頷いた。
ジャガーノートは動かずに真っ直ぐにアイザックの視線を合わせて目を薄めた。
アイザックはひとつ頷くとジャガーノートに飛び乗った!
「
「「「「「「ハッ!」」」」」」
ロイヤルセブンはアイザックを含めて七人編成である。
何れも手練れで百戦練磨の猛者どもだ。
そしてドラゴンそのものも、一般的にはワイバーンを起用するところ、
中でもアイザックの乗っているジャガーノートは特別で
アイザックはジャガーノートの背に手を当てて帝国城の飛竜滑走路で叫ぶ。
「さあ! 神々と悪魔、そして竜王が動く時が来た! 世界の黄昏、ラグナロクの幕開けは近い!」
ロイヤルセブンのドラゴンがユグドラシルの空に向かって猛る。
その咆哮を合図にユグドラシルの空に血の雨が降り始める。
しかしそれはまだ、これから起こる悲劇の序章に過ぎなかったのだ。
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