第9話 お姉さんと王子

 僕はお姉さんを連れて、ニザヴェリル地帝国へ帰郷していた。


 あのままお姉さんが帝国に居たら、どんな目にあったか分かったもんじゃない。僕はお姉さんが地球人だと言う事を隠して、ニザヴェリルの我が家へ帰って来た。


「父さん、ご無沙汰しております、只今戻りました!!」


「おお、よくぞ戻ったノアよ! はて、そちらの女性はどなたかな?」


「はい、帝国で知り合った女性で、僕の将来の奥さんでございます!」


「やはははは! そうかそうか、お前もそんな歳になったか!」


「はい、素敵な女性と出会えて僕は幸せですよ♪」


「お初にお目にかかります。ルナと言います。お見知りおきを!」


「そんなに畏まらなくて良いから。ゆっくりして行きなさい」


「ありがとうございます!」


「して、ノアよ」


「何、父さん?」


「我が家を継ぐ気になった。そう考えて良いのだな?」


「イヤだなあ父さん、そんなわけ無いじゃないですかぁ。あははは…」


「そうかそうか…、もう良い出て行け〜っ!!」


 父さんは半笑いしながらプンスコ怒っている。怖い怖い。


「うひゃ〜! ルナさん行こう!」


「んにゃ? 良いの?」


 僕はお姉さんの手を取って部屋を出た。


 ニザヴェリル地帝国はユグドラシルの地底に広がる特大の地底都市だ。

 地底なので陽の光は当然入って来ないが、魔導灯が張り巡らされていてどこもかしこも明るい。

 ニザヴェリルは魔導科学がユグドラシル一発展しており、魔導科学都市となっている。

 工業地帯の様な街が点在していて、大きな横穴で繋がり、大蛇のような鉄道が休みなく周回している。もう街全体が機械で構成されていると言っても過言ではない。

 街は全体的に工業用油の匂いが立ち込めていて、鉄の匂いと合わさり独特の空気を作り出している。そのせいでエルフ族が近付く事はない。


 そんなニザヴェリルの街の片隅に僕の工房がある。何の工房かって? 決まってるじゃないか、オートマタだよ? 僕の代わりに仕事をしてくれるオートマタが出来ないかと、常日頃から研究しているんだ。帝国の研究所でもずっとその研究をしていたんだよ?


 僕とお姉さんを乗せた魔導車は、僕の工房の前で停まると、帝国から持って来た大きな荷物を運び込んだ。


「さあ、ようやくゆっくり出来るね〜!」


「そんな事よりノア君?」


「なぁに、お姉さん? 僕と婚約する気になった?」


よりノア君、私、あなたが王族……いえ、ニザヴェリル地底国の第一王子だなんて聴いてないよっ!?」


「ほぇ? だって聞かれなかったからさ?」


「そりゃあね? 帝国のアイザック王子と幼馴染みと言う時点で、気付くべきだったかも知れないけれど!!」


「そんな事はどうでも良いじゃないか?」


「ノア君が良くても……私が……」


「ルナさんは何か困る?」


「だって……王子様だよ? その奥さんだなんて……例え身分を隠す為だとしても……畏れ多いと言いますか……ふにゃあ…」


 お姉さんは赤くなった。脈アリと思って良いだろうか?それなら良いんだけどなぁ。


「そんなモノは肩書だよ。僕は僕さ。それとも……嫌いになった?」


「そんな事ない! そんな事ないよ!? でも〜」


「もう、そんな話は良いからさ、これバラすの手伝ってくれる?」


 それはあの時ルナさんの乗って来た機体から回収されたアンドロイドだ。これは人の言う事を聞き、その命令に従って動くのだと言う。もしそれが本当だったら、僕のオートマタが完成に近付く筈だ!!


 僕の隠居生活はもはや目前だと言えよう!!


「えっとお姉さん……これは何? あ、こっちも!」


「トランジスタとコンデンサ」


「ふぁっ!?」


 すぐ作れるかと思ったのに先は長そうだ!!


 それから僕は一週間かけて、お姉さんの説明を受けながらアンドロイドを解体していった。だって、へんてこな部品がいっぱい付いてるんだもん?



✻     ✻     ✻



 一方帝国での戦線はユグドラシル大同盟による帝国軍への加勢もあって、戦況に変化が生まれていた。防戦一方だった戦線が攻撃に転じ始めたのだ。


 戦闘機は竜騎兵が白兵戦を担い、遠距離攻撃としてヘカトンケイルが参戦した。


─ガガッ!

 竜騎兵が戦闘機の主翼を脚で蹴飛ばして破壊すると、戦闘機は錐揉みしながら墜落してゆく。

 

─テュンテュン!

 戦闘機からはビーム光線が照射されるが、それも風魔法で弾道を逸らして避け、竜騎兵が敵機のエンジンを攻撃して反撃した。


─ボババババババババババン!!

 ヘカトンケイルは遠方から無数の弾幕を張って、一飛行隊を壊滅させている。戦力的には凄いのだが、ヘカトンケイル自体の的が大きい為、攻撃されやすい。その被弾を避けるためにヘカトンケイルの周囲を、エルフ族が風魔法で防壁を張っている。


 地上での白兵戦は接戦だ。地球人による装甲兵は機動力も高く、攻撃力も異常に高い。

 強化装甲アーマーを装着した地球人は二周りは大きく、移動も歩行だけではなくジェットを使う。それだけでも強力な物理攻撃と物理耐性を持っているのだが、光学兵器のレーザーライフルやレーザーサーベルまで持ち合わせている。


 しかし、相手は機械なので、壊してしまえばただの鉄の塊でしかない。魔法使いがサンダー系の魔法で向こうの回路を壊して制御不能にし、他がとどめを刺しに行く。他にもネクロマンサーのアンデッドを使ったゾンビアタックや、巨人族による無尽蔵な物理攻撃も功を奏している。


 僕はその間決してサボっていたわけではないよ? じゃあ、何をしていたかって? アンドロイドの解析を進めていたんだよ! 将来の隠居生活の為にねっ!

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