第8話 お姉さんと帰郷

 僕は決心した。


「故郷へ帰るよ」


「急にどうしたの、ノア君?」


「このまま帝国に居ては危険だ。故郷へ帰らなければいけない」


「ノア君の故郷って?」


「うん、僕はドワーフ族だ。ドワーフの故郷と言えばニザヴェリル王国に決まってる」


 僕は客間のバルコニーから遠く故郷の空を思った。ニザヴェリルに空なんてものは無いんだけどね?


「そっか……ずっと一緒にいたのに淋しくなるね?」


「それなんだけど……お姉さんも一緒に来ない?」


「え……? でも、地球人侵略の責任もあるし、私が逃げ出すわけには……最悪は人質になっても良いと、天帝様には進言していますし」


「うん、でもね? お姉さんの科学者としての地球の知識が欲しいんだ。レナちゃんには僕から説明するよ」


「地球の知識?」


「だって相手の事を知らなくっちゃ、僕たちは指を咥えて見ているだけと言うわけにも行かなくなったからね!?」


「ルナよ」


 僕たちの背後から客間のドアを開けて入って来たのはレナ=ヨーグ=ドラグナー、天帝様だ。


「て、天帝様!? ロイヤルガードの皆さんは?」


「ふん。 あんな気の抜けた奴らなんぞおらんでも、我は小娘なんぞに殺られたりはせんぞ?」


「そんな気は毛頭ございませんが、しかし……」


「ふむ。ノア、こやつをお前に任せる。帝国は各国と協定を結んで反撃に出ようと思うておるのだ」


「レナちゃん…」


「そこでノア、お主に頼みたい事があるのじゃが聞いてくれるか?」


「いいよ?」


「我が愚息、アイザックも連れて行ってはくれんかの? 知っての通り帝国はこれから激戦地になるじゃろう。当然アイザックも指揮を執るべきなのはわかっておるのじゃが、奴は実戦経験がないのじゃ」


「レナちゃん、わかった! アイザックも連れてくね!」


「かたじけない」


「母上!」


 客間のドアは開放されていたので、ドカドカと荒々しく足音を鳴らしてアイザックが入って来た。


「おう、アイザックかちょうど今お前の話をしておったのじゃ」


「それが耳に入ったので参りました!」


「アイザック、そう言うわけじゃから─」


「─ボクは帝国に残ります!!」


「何を言うておるのじゃ、お前は実戦経験もないし役に立たん! ノアについて行け!」


「行きません!! 母上を置いては行けません。ボクの肉親は今や母上のみにございますれば、離れとうございません!」


「可愛い事を申すでないか。しかし、我がドラグナー家の血を絶やすわけにはいかんのじゃ。お前には生き延びて欲しいと言う親心だけで言うておるわけではない」


「存じております。されど、ボクはドラグナー家の血が断絶したとしてもこの国に残りとうございます! どうか、ご再考を!」


「誰がこんなマザコンに育てたのじゃ!」


「レナちゃん以外に居なくないですか?」


「そ、そうか?」


「はい」


「ノア、どのみち君のお父さんの力を借りる事になるだろう! そして君はその後を継ぐ他はない!」


「だが断る!」


「なにぃっ!?」


「わはははは!相変わらずノアはユニークじゃのう!!」


「それはレナちゃんに言われたくない!」


─わははははははは!


 「ノア!」「アイザック!」


 僕たちは抱き合ってお互いの友情を確かめ合った。


 もう会えないかも知れない。だけど、また生きて会おう、そう誓った。



✻     ✻     ✻



 帝国の主戦力は竜騎兵団だ。


 対する相手は鉄で出来た戦闘機と装甲兵。物理特化のバケモノだ! その上、攻撃は広範囲を火の海にする爆弾や、光学兵器と呼ばれるビームライフルやビームサーベルなんてものを使って来る。まるでこちらが紙装甲だと云わんばかりの破壊力だ。

 唯一優勢に立てるのが魔法だ。彼らには魔力が無く、魔法に疎く使えないのだ。


 戦闘機には竜騎兵、装甲兵には魔法使いで対抗しているが、やはり圧されているのだ。


 そこで天帝様は九王議会クレア・レギスを招集した。


・ミッドガルド帝国:レナ=ヨーグ=ドラグナー

・アスガルド皇国:レア=アース=ノルン

・ヴァナランド:ユング=ヴァン=ディース

・アールヴ妖精国:ヴィンラント=アルフ=フレイ

・ムスペル炎国:エリヤ=ムスペル=スルト

・ヨトゥン巨国:ロック=ヨトゥン=ウトガルド

・スヴァルト黒妖精国:ジュード=スヴァルト=ダクネス

・ニザヴェリル地底国:レメク=ドヴェルグ=ウトナ

・ニヴルヘル冥国:ヨミ=ニヴル=ニドヘグ


 ユグドラシルにおいて、九人の王が揃って顔を合わせるのは初めての事だった。


「諸君! 緊急招集にて挨拶は抜きだ!! これまでのわだかまりも確執も全て捨ててくれ!!

そして皆に頼みがある!! どうか我が帝国に力を貸して欲しい!! この通りだ!!」


 帝国のトップが深々と頭を下げた!


 場の空気がザワつく。王たちは帝国で何が起こっているのかまだ知らない。


「天帝レナ、いったい何があったと言うのだ?」


 口を開いたのは一番親交があったニザヴェリルの王レメクだった。


「ユグドラシルの外から敵が侵略して来たのだ。今、帝国は火の海と化しておる。この火の手はやがて各国へと広がるであろう。ユグドラシルを守る為には、各国の協力が不可欠なのだ! この通り!!」


 天帝レナは再び深く頭を下げた。


 王たちは顔に怒りをあらわにして、地球人への制裁を下すべく協定が成された。


 後にこれが『ユグドラシル大同盟』と呼ばれ、地球人との全面戦争の皮切りとなった。

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