第7話 お姉さんと黒い雨

 発信機は無情にも地球人の船である事を、明確に証明して見せた。


 提督とルナさんが帝国の参謀大臣のピーターさんに呼び出された。


 結果的に二人の感知するところではなかった。

 しかし、このユグドラシルの情報が地球で話題になり、有用で高品質な資源を求めて別の調査艦隊が来ている様だ。

 その調査隊を指揮している艦長が強硬派で、地球星議会で決まった穏健派の段階調査の進行の遅さに痺れを切らしたらしい。


 提督は天帝に正式に謝罪し、賠償を申し出た。天帝は然程さほど咎めたりはしなかったが、他にも地球人側の罪状が挙がっている為に賠償は受け入れた。

 しかし、新しい契約魔法を幾つか交わすことになった。地球人側の横暴が目に余る場合は、それ相応の刑罰を与えると言うものだ。当然ユグドラシル側の法で裁くものであり、地球人側に拒否権は無いものとした。

 また、許可なき侵入者は攻撃対象とするものとした。


 提督は甘んじて受け入れ、今一度地球星議会へ進言した。


 しかし、それからも強硬派の艦隊は次々にやって来た。ミッドガルド帝国は夜な夜なやって来る艦隊を次々に落とした。


 街での横暴も目立つ様になり、仕舞いには獣人族やエルフ族、ドワーフ族など人攫いが頻発した。どうやら地球に連れ帰って、慰みものにしている嫌いがあるようだ。


 提督自身も艦隊を総動員して対応に当たったが、強硬派の凶行が留まることはなかった。


 提督は追い詰められて、もはや不可侵条約に抵触しかねないとして、ユグドラシルから撤退する事を決意した。


 ルナさんも撤退命令が出てはいたものの、強硬派がユグドラシルへ及ぼす影響を懸念して、滞在延期を決意した。


「お姉さんは故郷が恋しくないの?」


「……ノア君は私が居ない方が良いのかな? そうなのかな? もし、ノア君が迷惑なら私……」


「そ、そんな事を言ってないよ!! ご、ごめんなさい……」


「ううん。解ってる。ノア君がそんな酷い事を言う人じゃない事は、よく解ってるよ。だって、ずっと一緒に居たもんね?」


「うん。僕……」


「ノア君?」


「はい」


「私、このユグドラシルと言う星が好きなんだよ」


「うん…」


「だから、こんな酷い事をする地球人が許せないんだよ!! 絶対に!!」


 僕たちの眼の前には、逃げ惑う多くの人たち、燃え盛る街の家々、立ち昇る黒煙が青く澄んだ空を埋めてゆく光景が広がっていた。


 遠くの空には地球人のものと見られる艦隊が、次々にミズガル平原へと降り立っている。

 そこから羽虫の様に戦闘機と呼ばれる鉄の塊が飛び立って、街に黒い雨を降らせている。


「ああ……なんてことを!! いったい誰がこんな指揮を!!」


「お姉さん、あの発信機のヤツがあそこに居るみたい」


「……あの時は暗くてよく見えなかったけど、あの船!? アシッド財団!?」


「……何すかソレ? アシッド?」


「アシッド財団。今、地球のロボット産業を牽引する財団で、この地球外資源調査へ一番投資していたわ。ロボットを動かすのにあと一歩の所まで来ていて、新しい資源を求めてたの」


「ロボット?ってなに?」


「うんとねぇ……こちらの世界で説明するならば、巨人族より二回り以上大きなオートマタを作っているわ」


「何それ怖い!?」


「ええ、とても怖い開発よ。ソレを兵器として運用しようと言うんですもの」


「そんなことの為に調査してたの!?」


「初めはね? 地球の資源が枯渇しているから、新しい資源を求めて地球の外に出たのよ? それが私たちの調査艦隊だったの」


「それが何で?」


「地球以外の星で、有用な資源のある星は大抵の場合先住民が文化を築いていて、大々的に手を出すことなんて出来なかったの。このユグドラシルもそうでしょ?」


「うん」


「それがこの星の資源がアシッド財団のロボット産業に拍車をかけて軌道に乗せたのよ」


「どうしてそんな事になったの?」


「アシッド財団はこのロボット兵器『機兵』と既に実装化されている『装甲兵』を以て、外の星の資源を強奪する気なのよ」


「ユグドラシルがその初めの犠牲となるって言う事!?」


「おそらくは……ノア君、ごめんね! これは私のせいだ!! 私がこの星の事を伝えさえしなければ、こんな事にはならなかったのにっ!!」


「なってしまったものは……仕方ないよ。お姉さんは責任を感じてこうして残ってくれたんだし。それより僕たちに何が出来るのか考えよう!!」


「ノア君!!」


 ……不安なんだろうな、お姉さん。


 僕はお姉さんの温もりを感じながら、この先自分が出来る事を考え始めた。


 クソッ! 僕の平穏な生活が脅かされるなんて、許せない!!

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