第6話 お姉さんとカップ麺

 ルナさんと僕はアスガルド鉱山の調査に来ていた。最近調査で採掘した量以上の魔鉱石が、無くなっているとの噂があったので様子を見に来たんだ。


 炭鉱で働いている地球人はアームギアと言う機械を装着して岩盤を掘削して行く。それを運搬用のドローンと言う機械を使って運び出して行く。


 一日の採掘量が決められていて、それ以上に採掘してしまった分は帝国が買い取るシステムだ。


「流石にここで不正を働くと、すぐにバレちゃうんじゃないんですか?」


「うんにゃ、そう思いたいけど、どうだろうねぇ〜?」


 ルナさんの口振りでは、不正は行われている方に考えている様だ。


 日中はそれが確認されなかった為に、夜も見張る事になった。


 小さなテントを張って、僕たちは夜警の準備を整えた。


 辺りは真っ暗で、火を使うとすぐにバレてしまうために焚き火も出来ない。アスガルド鉱山付近は山から吹き下ろす風が冷たく、夜は更に冷えて来る。


「クシュンッ!」


「ノア君大丈夫? 先に研究所に戻っても良いよ?」


「え? 嫌ですよ研究所なんて、仕事したくありませんし」


「あはははは。本当に仕事嫌いだよねぇ、ノア君はっ!」


「そんなに仕事って楽しい?」


「うんにゃ。仕事だと楽しくなくても、私の場合は半分趣味だからねぇ?」


「趣味? クシュンッ!」


「ほらっ! 風引くからこっち来なよ?」


「え、いいの?」


「良いよ。一緒にテントに入ろ?」


「じ、じゃあお言葉に甘えて……お邪魔します」


 僕は小さなテントにお姉さんと二人、肩を寄せ合って毛布にくるまった。


「変なとこ触っちゃヤだからねっ!」


「そんな事言われちゃうと、余計意識しちゃうじゃないか……」


「そりゃそうだ! あはははは!」


 だって、お姉さんてば柔らかくて、温かくて、とっても良い香りするんだもんなぁ。


 意識しない方がオカシイ!


「ねえ、お姉さん」


「んにゃ?」


「お腹空かない?」


「む……」


─キュルルルルン…


「あはは」


「今のはノア君が悪い! もう……」


「アレ出して?」


「でも火は使えないよ?」


「いいからいいから♪」


 お姉さんはリュックの中からカップ麺と呼ばれる地球人の食事を出してくれる。

 僕はコレを初めて食べた時の衝撃を忘れられないんだ。だって、お湯を入れて三分でめちゃくちゃ美味しい麺が食べられるんだよ?

 これは地球人の奇跡だ!


「はい、シーフード味とカレー味、どっちが良い?」


「「カレー」」


 二人顔を合わせてニヤリと笑い……。


「「………じゃんけんポン! ポン! ポン!」」


「勝った!」


「うんにゃ〜負けた〜。でも、これどうやって食べるの?」


「うん、コレだよ」


 僕は持ってきたアーティファクトを出した。


「水筒?」


「ちょっと違うかな? これはこのカップ麺の為に僕が開発したアーティファクトで、『お湯出る君』だよ」


「あはは、にゃんそれ〜!」


「まあまあ、ご照覧あれ〜♪」


 僕が筒に魔力を通すとあら不思議。筒の先から滔々とうとうとお湯が注がれるじゃあ〜りませんか〜!


「わぁお! ノア君すご~い♪」


─ルルルルルルルル……

  音が聞こえてきた。


「え?」


「外からだね!?」


 僕たちが外に出ると炭鉱の方に大きな黒い影が見えたから、岩影に隠れて様子を見る事にした。


「え……あれは船?」


 炭鉱の影はただの影で、上空に大きな船が浮いていた。研究所近くにある中型船くらいの船だ。

 そこから何かが沢山降ってきて、炭鉱からどんどん魔鉱石を船に運び込んで行く。


「ドローンが魔鉱石を船に運んでるんだわ……いったい誰がこんなひどい事……」


「これはルナさんたちの船ではないと言う事?」


「暗いからよく見えないけど、そう思いたいわ……でも、地球の船である事には間違いない。私、確認してみる!」


「ダメだよ! もしルナさんの身に何かあったら僕……僕……うっ…」


「な、泣かないのっ……もう。ノア君は心配性だなあ?」


「だって……だって……グス…」


「ほら、もう行かないから、涙拭いて…」


 ルナさんの香りがするハンカチで、僕の顔を包み込むように拭いてくれるルナさんの手が、とても温かかった。


「そうだ! コレを使おう!」


 僕は以前作った発信機付きの飛翔型アーティファクトを取り出した。


「あ……それ良い!! 上手く行くかな?」


「上手く行くかどうかじゃなくて、やってみるんだよ!」


「何か、ノア君のクセに偉そう!?」


「もうっ、また子供扱いして〜っ!」


「うふふ♪」


 僕は発信機付アーティファクト『サイレントフェアリー』を船に向けて飛ばした。

 上手く発信してくれると良いが。


「よし、上手くいったよ、お姉さん♪」


「やったね~♪」


 お姉さん、抱きつくと柔らかいのが頭にあたるんだよ〜! そう言えば何か忘れてるような?


「「カップ麺!!」」


 僕たちは伸び切ったカップ麺を、苦笑いしながら仲良く食べた。

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