第5話 お姉さんとカルボナーラ

 地球人による調査と研究が始まった。


 僕は調査員として地球人と同行する任務を任せられた。もちろんお姉さん専属だ。

 え?裏工作なんてしてないよ。これはお姉さんたっての依頼なんだ。お姉さんは高名な博士で、僕はそのサポーターに指名されたんだよ。何か文句ある?


 調査が進むに当たって地球人と現地人との交流が生まれて、冒険者登録する地球人も増えた事でミズガルの街は活性化した。


 地球人は調査と研究で得るものが多く、とても喜んでいるそうだ。

 そしてなんと、地球人の文化がユグドラシルへと提供されて、地球人文化の一大ブームが一世風靡した。


 初めは音楽だった。クラシック、JAZZ、ポップス、ロック、ヘビメタからアイドルグループまで様々なジャンルの音楽が出回った。

 それに追随してマンガやアニメ、ゲームも普及し始めて、現地語に翻訳された雑誌やアニメが流行し始めて、今ではマンガ雑誌や映像文化が生まれつつある。

 また、地球人が持ち込んで来た食べ物を現地人が再現して作り、地球料理として人気を博しているらしい。


 そんなこんなで半年が過ぎた。


 僕はお姉さんと街で晩御飯を食べていた。


「これは私が大好きな地球の食べ物でね? カルボナーラって言う食べ物なんだけど、ノラ君の口にも合うかなぁ?」


「何かツルツル滑って上手く持ち上がらないねぇ?」


「あはは。じゃあ、お姉さんが見本を見せてあげようねっ!」


 お姉さんはフォークとスプーンを使ってクルクルと回し始めると、みるみる麺がフォークで丸められてゆく!?


「はい、ノア君あ~んして! あ~ん!」


「ほぇ?」


「ほらっ! 早く早くっ! 落ちちゃうよ〜っ!」


「ほぁ〜〜むぐっ!!」


「どお!? どお!?」


 そんなキラキラした目で見られると、美味しくなくても美味しいって言わなきゃイケない気がするよ? でもまあ。


「めっちくちゃうんまい!!」


「でしょ!? でしょ〜♡ あたしも食べよ〜♪」


 ……うわ〜、あんなに口に入れて、本当に美味しそうに食べるなぁ……か、可愛い♡


「うんにゃ〜♪ こりゃうみゃいよノア君!! ここのシェフは天才かい?」


「さあ? お姉さんがそう言うならそうなのかも?」


 こんなお姉さんを見ていると、毎日でもカルボナーラが食べたくなるよね♪


─ガタタン!!


「なんやこの店の料理はよ!? これがカルボナーラっちゅうんかいっ!? お?」


「お客様、大声を出されては他のお客様に迷惑ですよ!?」


 店の奥で何やら客が騒ぎ始めた。


「そんなんわかっとるわいっ! そんな事よりこれ見てみぃ! これ、カルボナーラちゃうやんけ!? これでこの店は客から金取るんかい!?」


「そう申されましても、こちらは地球人にいただいたレシピ通りに作っております」


 店員さん、ビクビクしながらそう言うと、イチャモンつけてた客が凄み始めた。


「なんやておら! 俺は地球人やぞ!? 地球人がちゃう言うてんねんからちゃうやろ!?」


「やめなさい!!」


 お姉さん!?


「私も地球人ですが、これはカルボナーラです!!」


「何や姉ちゃん、どこのもんや!?」


「第一調査班班長、ルナ=ルミナス=シノミヤです! 貴方は何処の所属ですか!?」


「な……第一調査班班長!? さ、さーせん!! お、おばちゃん、ここにお金置いとくさかい! ほな!!」


─バタンッ!


「はぁ……。店員さん、ああ言ったお客は多いんですか?」


「あ、ありがとうございます! そうですねぇ。よくあの様に言ってお金を払わずに出て行かれます」


「ひどい! 提督へ言っておくわ! 私の名刺を置いて行きます。今度あんな事があったら見せてください。それでも払わなかったら、この私に請求してくださいね!?」


「いや、そこまでは……」


「構いません! こんな美味しいカルボナーラが食べられなくなったら大変だもんっ!!」

 

 そこか〜!!


「あはは、ありがとうございます!」


「店員さん、僕のカードも置いとくよ。何かあったら天帝様に言ってあげる♪」


「ひえっ!? そんな畏れ多い……」


「ここの美味しいカルボナーラの為だよ♪」


「ありがとうございます!」


「何か付き合わせちゃったみたいで悪いね? 今日はお姉さんが奢っちゃうよ〜♡」


「わ〜い♪」


「もう、ノア君は可愛いにゃ〜♡」


「えへへ〜♪」


 子供みたいに頭グリグリされると恥ずかしいんだけど!? でも……もっとされたい♡


 僕たちユグドラシルの人は、この時はまだ知らなかったんだ。この悪意ある地球人が氷山の一角であることを。

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