第4話 お姉さんと不可侵条約?
空がね?昼なのに真っ暗になったんだ。
そこはミッドガルド帝国の郊外のミズガル平原。僕たちはルナさんの乗って来たと言う宇宙船を目の当たりにしていたんだ。
ルナさんがデバイスで連絡をとって呼び出したそれは、とてつもなく大きく、本当に街一つ飲み込むほどの船だった。バハムートより大きい動くモノを見るのは初めてだ。いったいどの様な原理でアレが浮いているのか理解出来ない。まるで大きなクジラの背中に要塞が乗っているかの様だ。
僕は感動すると同時に恐ろしくもあった。
だってさ、あんな大きな鉄の塊が飛んでるんだよ?
─ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
─ヒュンヒュンヒュンヒュン……
大きな地鳴りとファンの様な音がしばらく続いて、それが鳴り止むとハッチと呼ばれる入口が開いた。
中から物々しい人達が大勢現れて、左右に分かれて一糸乱れぬ動きで整列し、こちらまで続く道を作った。
その道を大きな四角い鉄の塊が現れて、こちらに向かって来る。
─ルルルルルルルル……シュウゥ…
鉄の塊が僕たちの前まで来ると中から体躯の良い黒い詰め襟の男達が、鉄の棒みたいな物を携えて出て来た。
最後に真っ白な詰め襟の、口髭を蓄えた初老の男が現れる。
先ず初めに、ルナがその男たちに一礼をして、僕の作った双方向自動通訳機を配った。
「提督! お待ちしておりました! こちらがこのミッドガルド帝国の天帝、レナ=ヨーグ=ドラグナー陛下にございます! 陛下、ご紹介いたします。こちらはネルソン=トーゴー提督です。今回の宇宙資源調査艦隊の総指揮官であり、我が星『地球』の代表です!」
ルナさんに紹介された初老の男性、ネルソン=トーゴーは陛下の前に進み出て膝を付き、胸に手を当てて頭を下げた。どうやら敵意が無いことを示している様だ。
「ようこそ我がミッドガルド帝国へ。我こそはこのミッドガルド帝国の天帝にして、ユグドラシルの人族を統べる者。名をレナ=ヨーグ=ドラグナーだ。面を上げよ、ネルソン=トーゴー」
「は! この度は本艦の着陸をお許し戴きまして、誠に感謝いたします。コレはそのお礼と心ばかりの気持ちです。どうぞお受け取り下さい」
ネルソンが
「ふむ。コレは何であるか?」
「コレは我が星の神を
─シュッ!
被せてあった布を引いて中から現れたのは、ガラスの箱に入れられた、十一の顔と千の手を持つ異形なる人型の彫像だった。
「ほほう…これはなかなか……」
「お解りになられますか?」
「うむ。異形の形を成しておるが、今にも動き出しそうなほどに美しい。そして何よりこの意匠は神懸かっておる。素晴らしい!」
「お褒めの言葉を賜り、至極光栄に御座います。引いては一つ要望があるのですが拝聴して戴きたく存じます」
「ふむ。申してみよ」
「そこのルナよりこの星の情報はある程度入っております。そこで相談でございますが、こちらでの停泊許可と、この星の調査をさせて戴きたく存じます。勿論、この星を害することはありませんし、見張りをお付け頂いても構いません」
「いったい何を調査すると言うのだ?」
「或いは既にお耳に入っている事だと思いますが、この星の生物、植物、鉱物、そして許されるならばアーティファクトと呼ばれるモノも研究してみたいと思っております」
「調査と言ったがその期間は如何程のものか?」
「はい、可能であれば一年ほどの期間滞在したいと思っております。この星の年間を通しての文化も観てみたいもので」
「どうじゃ、ピーター?」
「はい、それでは提督にお訊きしますが、街一つ程もあるこの船にはどれ程の人が搭乗しているのでしょうか?」
「はい、図体ばかりが大きく見えますが、中は狭く百名ほどしか居りませぬ。水さえ提供いただければ、食事は何とか致します。ご迷惑はおかけしません」
「なるほど。調査を許可する場所と行動する人数は、こちらで制限しますが構わないでしょうか?」
「それは勿論だ」
「わかりました。さればこの不可侵条約に魔法契約を以てそれを約束しましょう」
「魔法契約……ですか?」
「そうです。仮にこの不可侵条約が破られる事があれば、貴殿の生命を引き換えにすると言うものです。約束さえ
「良いだろう。約束しよう!」
「では、こちらにサインを…」
式演台にて両者が不可侵条約にサインをして、契約魔法が成された。淡い光が両者を包み込んで、それが消えると魔法は成立して、二人は固い握手を交わした。
これだけは言っておくが、僕はお姉さんと不可侵条約を結ぶ気は毛頭ない!!
─パチパチパチパチパチパチパチ……
大きな拍手が生まれ、提督たちはそのまま鉄の塊に乗って、ルナと僕の案内で帝国城まで移動した。
その夜は帝国城にて盛大に宴が催されて、その裏でお互いの友好を確かめ合い、それぞれの異文化交流の在り方を話し合った。
内容としてはこうだ。
地球人の宇宙資源調査艦隊の母船はそのままミズガル平原を拠点する。
艦隊の中型船を僕の務める研究所の近くに停泊させて、そこを中心に半径1500キロ四方の調査を許され、採取は研究分だけ認められた。
行動時は必ず座標の判るアーティファクトの装着を義務付けて、調査範囲を超えるとアラームが鳴って帝国へ知らされる仕組みだ。
研究で得た情報は全て開示して共有され、その為に帝国からも調査協力と称して調査員を派遣した。
船に持ち込む資源やアーティファクトは必ず関所を通す事。そこで採取量やアーティファクト、研究資料のチェックを行う。
生活面に関してはミズガル湖の水の使用を許可して、必要な物資はある程度提供するが、その代わりとして魔物討伐の労働力と引き換えとした。魔物討伐にあっては冒険者登録をすることにより、身分証を配布されて個人が特定される為、ミズガルの街への出入りも許された。
こうして、帝国と地球人との交流が始まったのだった。
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