第169話 なんと慈悲深いお方なのだろうか



 そしてカイザルはヨハンナが悲しんだ事に激怒したのである。


 まさかカイザルが自分の事ではなく他人、しかも奴隷の為に怒るとは思いもしていなかった私たちは初めどうしてカイザルが怒っているのは理解できていなかったので、とりあえずなぁなぁにしてこの場を流そうとしたのが悪かった。


 しかも私たちは『カイザル本人の事で怒っているのではないから何とかなる』というのと『奴隷に頭を下げたくない』という感情からプレヴォの件があったにも関わらず、真剣に対応しようとしなかった。


 そしてこの対応が最悪の選択肢であったと気付いた時にはすでに遅く、貴族である私たちが野次馬のいる前で奴隷に頭を下げなければならない状況になってしまっていた。


 この日この時より私たちは恐らく家族から縁を切られ、それだけならばまだ良いが家族も貴族として生きて行けない可能性が出てしまったのである。


 それでも死にたくないという気持ちの方が勝ってしまった私たちは結局貴族として生きていく素質は無かったのだろう。


 顔を真っ青を通り越して土色になった仲間を見ると、私と同じく貴族として才能が無かった自分、そしてこれから貴族として生きていく事はできないという事に皆気付いているのだろう。


 しかしながら貴族社会というものはこういうものである。


 一事が万事であり、敵対している貴族は敵が墓穴を掘る事を虎視眈々と狙っていると教えられて生きて来たにも関わらずこれなのだから、私たちはよっぽど才能が無かったのだろう。


 そう思えば諦めもつくというものである。


 あぁ、これから平民としてどのように生きて行こうか……。そんな事を考えながら私たちは野次馬の前で奴隷に頭を下げて謝罪をする。


 しかしここでカイザル、いや、カイザル様は私たちのしでかした罪を許し、それだけではなく私たちに対して『この件でお前たちの家に何かしら不利益を被ったりした場合は俺に言ってこい。その場合は公爵家として不利益を被った奴らを対処してやろう』と仰ってくれたのである。


 勿論この言葉は、今回の成り行きを見ていた野次馬達も聞いている為。今回の件で私たちや実家に不利益になるような事をしでかそうとする者はいなくなるだろうし、万が一したとしてもカイザルが間違いなく動いてくれるだろう。


 あぁ、なんと慈悲深いお方なのだろうか。


 この時わたしは心に誓ったのだ。


 これからはこの身はカイザル様の為に使おう、と。



◆主人公side



 何故か知らないけれど先程の一件以降、公爵家という権力を使って脅しまくった四人から熱い視線が注がれるようになった気がするのだが、きっと気のせいなので考えないようにしてランキング戦をどうしようかと悩む。

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