第161話 優しいだけでは意味がない
うん、ぐうの音も出ないね。
何というか、自分の甘さというかどこか前世と比べてレベルの低いこの世界の住人達と見下して、気が緩んでいたのだろう。
そういう甘さを恐らくお父様は感付いたのかもしれない。
ここは気を引き締め、何でもない小石や段差で躓き人生が転落しないようにするべきだと認識、反省する機会をくれたお父様には感謝しかない。
前世に関しても国家魔術師と言えど一般市民であった為心のどこかで『市民』としての感覚もあったのだろう。
スパイとして見えてしまうのであれば、スパイと思って扱わないと痛い目をみる。当たり前ではないか。
「……お父様、ありがとうございます。すこし気が抜けていたようです」
「うむ。流石我が息子だなっ!! お前はただの貴族嫡男ではないからなっ!!」
そしてお父様はそういうと『わっはっはっ!!』と嬉しそうに笑いながらこの場から去っていく。
「ご主人様……もしかして私のしたことはいけなかった事なのでしょうか?」
「いや、それに関しては事前に『他国へ干渉する、またはその可能性がある場合は俺に一度相談する』という旨を奴隷達に伝えていなかった俺の落ち度である。お前が気にする事は無い。それにお前のお陰で俺は自分の考えの甘さを痛感する切っ掛けとなった。奴隷と言えども今までの境遇を鑑みて、できるだけ自由な環境にしてやりたいと思っていたのだが、そのせいで奴隷達をコントロールできずに破綻してしまっては元も子もないからな。一度奴隷達には規則を考え、伝えるのでそれまでは何か行動する場合は事前に連絡をするように申し訳ないが『命令』させてもらう」
あまり奴隷だからと言って命令で縛りたくはないとは思っていたのだが、おそらくこの思考も市民としての思考だったのだろう。
優しさは良いと思うのだが、優しいだけでは意味がない。
「あと、エリスにはこれから王国のスパイとして動いてもらう事になるのだが、良いか? とは言っても実際にスパイとして働いてもらう可能性は現状限りなく低いと思うのだが、もし嫌なのであれば王国からは手を引き、爵位は手放してもらう事になるのだが……」
「ご主人様がスパイを望むのでしたらわたくしは喜んでスパイとして働きますわっ!! むしろ王国を亡ぼして欲しいくらいですものっ!!」
「そうだよな……生まれ育った国を裏切るような行為はしたく……え?」
そして、お父様の教え通りエリスには酷だろうがスパイとしてこのまま活動する事となる(あくまでも体であり『スパイと思って扱う』という意味)ので、それが例えそういう体であったとして故郷を裏切るような行為はしたくないだろうと思っていたのだが、むしろエリスは俺の話を聞いてやる気満々になり、目をキラキラさせながら俺を見つめてくるではないか。
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近況ノート(限定)にて162~163話(ストック分)更新いたしました。
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