第148話 『正当防衛』を取らさせてもらう



 わたくしはあの頃の、虐げられていた頃のわたくしではないのだ。わたくしはもう元家族から虐げられるような事があってもやり返すだけの力は手に入れる事ができたのだから反撃だってする事ができるのだ。 と、頭では理解できていたのだけれども、実際に元家族に会うまでは本当にそうなのか? という疑問が心の奥底で燻ぶっていた。


 けれど、元兄であるオルグの目から視線をそらさずに『雑魚』だと言いきれた。


 その事がどうしようもなくわたくしは嬉しくてたまらない。


「……死ね、炎魔術段位三【炎の槍】っ!!」

「ここをどこだと思っているのかしら? 冒険者ギルドの内部ですわよ? しかもそんな場所で炎系統の魔術を行使するだなんて、冒険者ギルドがあなたの魔術のせいで火事になってしまったらとか想像できなかったんですの? そもそも怒りの感情を制御できていない時点でわたくしからすれば初心者以下ですわね。その程度で良く今までわたくしに対して偉そうに講釈を垂れてきたものですわ……」

「エリス、お前いったい何をした? どうせ卑怯な手段を使ったのだろうしその卑怯な手段があるからこそ偉そうな態度ができたのだろうが、それは魔術に対してであり、武力にかんしてはそうもいくまい。この俺様をお前ごときが見下し、侮辱した罪、死んで詫びろやっ!!」


 ついに怒りの感情を抑える事ができなくなったのかオルグは建物の中だというのに炎魔術を行使してきたので、わたくしはママゾンストアの初級魔術パックに入っていたカウンタースペルを、無詠唱で行使してオルグが行使した炎魔術を打ち消してやる。


 もしわたくしがその魔術を打ち消さなかったら今頃大変な事になっているというのに、そんな事も理解できていないオルグは、自身がしでかした事の重大さよりもわたくしが魔術を消したという事しか考えられていないようである。


わたくしがオルグの行使した魔術を消した事が、プライドをかなり傷つけられてしまったのだろうが、だからと言ってオルグのしでかした禁止行為が無効にされる訳もなく、ギルドの職員が慌ただしく動き始めているのが視界の端で見える。


恐らくペナルティーを与える事を告げた時に暴れられた場合を考慮してそれなりの実力を持っているギルド職員を呼びに言ったのだろう。


 まぁ、人に向かって殺傷能力のある攻撃魔術を行使した事、その相手には決闘の申し込みなどしていない上に不意打ちであった為明らかに殺意があった事、室内で炎魔術を行使したこと、周囲も巻き込みかねない危険性も高かった事、関係ないわたくしに対して勝手に絡んで勝手にキレ散らかし攻撃をするという迷惑行為をした事などなど、少し考えただけでもオルグが何らかのペナルティーを受けてしまう理由はいくらでも思いつくくらいには、オルグはやり過ぎたと言えるが、それで終わっては面白くないので、わたくしは職員が来るまで『正当防衛』を取らさせてもらう事にする。

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