第143話 死ぬのも悪くない
そしてまるで売りをするような雰囲気でもなく、着ている物も、いくら元の家の中では古臭く色落ちもしており染みもある『みすぼらしい』というカテゴリーに入る衣服であろうとも周りにいる街娼たちと比べると一目で高級なものであると分かる服を着こんでいるわたくしを犯そうとする男性も現れる事もなかった。
おそらく美人局か、病気持ちか、貴族が唾を付けた女性であるかという判断をされていたのだと思う。
そう判断して近づかなかった男性たちは、わたくしと違って『この世界は一度判断を誤ってしまうと死ぬだけである』という事をちゃんと理解していたのだろう。
もし、この数日でわたくしは犯されたのならば……『どうせ汚れた身体ならば』と身体を売って生きながらえようとしたのかもしれない。
今さら初めてを守った所で今のわたくしには何の価値も無いというのは頭で理解しているにも関わらず行動に移す事ができないのは、わたくしはこのまま死にたいだけなのかもしれない。
わたくしの人生は何だったのだろうか?
そんな事を思いながらわたくしは意識を手放してしまう。
次に目を覚ましたのは捨てられた街ではなく見知らぬ天井に清潔感のある部屋であった。
わたくしが目を覚ました事に気付いてやってきたメイドらしき人物によって何でわたくしがここへ連れてこられたのか教えてもらう事ができた。
どうやら三日前にわたくしがいた街の街娼たちに『公爵家嫡男であるカイザル様の奴隷にならないか』と、その場所で働いていた元街娼であった女性からのお誘いがあったそうで、その時に倒れて意識のないわたくしを見つけて治療目的でそのカイザル様の下へと連れてきたのだという事らしい。
そうなると恐らくわたくしは既にカイザル様の奴隷にされているのだろう。
そう思ったのだが、メイド曰くわたくしが起きてから選ばせるとのことらしく、まだわたくしは奴隷にされていなかった。
それはカイザル様からすればたんなる気まぐれだったのかもしれない。
けれどわたくしにとっては忘れそうになった人の優しさを感じ取ることができた。
たとえ気まぐれであったとしてもカイザル様は『奴隷になるのは嫌がるかもしれない』と
その優しさを感じ取った時、わたくしは子供のようにわんわんと泣くことを抑える事ができなかった。
もしかしたら、わたくしを騙す罠かもしれないのだけれども、どうせ死を待つだけの身ならばカイザル様に騙されてから死ぬのも悪くない、そう思えた。
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