第142話 きっと気のせいですよ



そう可愛く『こてん』と首を傾げて上目遣い気味に返事を返してくれるマリエルなのだが、その返答は受け取り方によっては『高級オイルをくれなければオーナーだとは思えない』とも受け取る事ができてしまうのだが、気のせいだよな?


「何か……?」

「いや、何も……。気のせいであれば良いなと思っただけだ」

「……? そうですか。良く分からないのですがきっと気のせいですよ」

「あぁ。おれもそう思いたい」


 そんな事を思いながら俺は窓の外から見える青空を眺めるのであった。



◆奴隷side



 わたくしは元隣国の貴族であった。


 わたくしの元家は魔術に長けたエリート家系であったのだが、五人いる兄弟姉妹の中でわたくしだけが魔術の才能が無く、扱える魔術は生活魔法の【トーチ】と炎魔術段位一【火の粉】ぐらいであった。


 そんなわたくしを両親も兄も姉も弟も妹も、全員がわたくしの事を罵ったり暴言を吐いたいりされるのだが、それはまだマシな方で酷い時は『どうせ持っていても意味がないだろう』という理由で魔杖も持たされずに魔術の練習台として動く的にされることも良くあった。


 それでも、腐っても貴族の両親から産まれた身である以上政略結婚の駒としての意味はあるだろうから捨てられたり殺されたりすることは無いだろうと思っていたのだが、その考えは見事に外れてしまう事となる。


 ある日両親は『家族で帝国に旅行へ行こう』と提案してわたくしたちは帝国へ旅行へ行く事となった。


 わたくしは一度だけ、まだ幼く、両親からも他の兄弟姉妹と同様に愛され、期待されていた時に行った事がある。


 もしかしたら両親はわたくしの事を普段は罵ったりするけれども、それはわたくしの事を思っているからこそあえて厳しくしているだけであり、本当は他の兄弟姉妹たちと同じように愛してくれているし、期待しているからこそ厳しくされているのかもしれない。だからこそわたくしも旅行へ連れて行ってくれるのだと、この時のわたくしはそんなありもしない事を期待していた。


 しかし現実はそんな優しい世界などではなく、わたくしは帝国に置き去りにされて家族に見捨てられてしまった。


 お金の稼ぎ方も生きてく術も何も知らないわたくしはただうずくまる事しかできず、このまま死んでいくのだろうと漠然と思っていたし、実際にあの頃は死ぬことを受け入れ始めていた。


 もし、何が何でも死にたくないと強く思う事ができたのならば、ちらほらと見える街娼たちのように自分の身体を売って生きていく手段を択べたのかもしれない。

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