第132話 カイザルの方がまだマシ



 しかし、流石にそのような行為は私の護衛であるリリアンヌが許す筈もなく、腰に差している剣を抜いて剣先を相手の喉元へと突きつけ、手を放すようにどすの利いた声で言う。


 本当に、何でリリアンヌが男じゃないのかしら?


 男だったら皇族という立場を捨ててでもリリアンヌと結婚しても良いと思えるのに、そういう人物に限って同性というのが、なんだかわたくしの男性運の無さを表しているような気がしてならない。


 神様はわたくしという絶世の美女を作るのに全ての力を使い果たしたせいで、わたくしと同等の男性を作る力は残っておらず、今この世界にいる男性たちはわたくしの出がらしである、と説明されても今ならばすんなり信じてしまいそうである。


「……フィリアーナ様の金魚のフンで有名なリリアンヌか。俺の邪魔をするのであればどうなるのか理解できないお前じゃないだろう? 俺は伯爵家でお前は子爵家の娘、それも跡取りである男性ではなく女性という身分であるお前が位の高い貴族に向かって剣先を向けるなど……どうやら死にたいらしいな?」


 しかし、未だに私の手首を掴んで放さない豚は、リリアンヌに剣先を喉元に突きつけられても怯える事はなく、むしろ挑発的な笑みと言葉で更に煽ってくるではないか。


 わたくしの記憶が正しければこの豚はわたくしの護衛を決める試験で一度リリアンヌにボコボコにされて泣きわめいていた気がするのだけれども、その自信は一体どこから……あぁ、なるほど。そういう事ですの。


 何故、昔リリアンヌにボコボコにされた経験を持つこの豚がここまでデカい態度ができるのかと考えていると、いつの間にかわたくしたちは、恐らくこの豚の手下であろう男たちに囲まれているではないか。


「…………卑怯な手段を取るのですね。これならばまだ以前単身突撃して散っていったカイザルの方がまだマシだと言えましょう」

「おいおい、俺をあんな馬鹿と一緒にしないでくれよっ!! それに、俺の友達に対してその視線はちょっと失礼過ぎないか? 良いのかなぁ? そんな態度をして。俺のお友達が怒ってフィリアーナ様に何かしちゃうかもしれないねぇ」

「……クズが」

「おいおい、何を勘違いしているんだ? そもそもフィリアーナ様が俺と一緒に抜け出したいと申し出てくれたのだ。それを護衛といえどもどうして子爵家の娘ごときに邪魔をされなければならないんだ?」


 そして、そのお友達はわたくしたちが周囲から見えないように壁となると、じりじりと近づいて来るではないか。

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