第130話 全てあのカイザルのせい



 しかしながら式典にいたカイザルは、わたくしの知っているカイザルではなかった。


 むしろ、凛とたたずむその姿はカッコいいとさえ思えてくる。


 無駄に見てくれだけは良いのだから、黙ってさえいれば無難な人生を歩めただろうにと、つい思ってしまう。


 しかしながらあのクズが今更取り繕ったところでもう既にあいつの悪行は貴族界隈には知れ渡っているので、カイザルの評価は地の底、なんなら地面の中まで下がってしまっている悪印象を覆す事は無理だろう。


 他人からどう見られるかという事を、もしかしたら意識し始めたのかも知れないのだが遅すぎただろうし、いままで好き勝手生きて来たのだから今更気付いて行動に移そうとしたところで付け焼刃も良い所だろう。


 式典では良いだろうが、間違いなくパーティーではボロを出すだろう。


 …………………………あれ?


 そう思ってわたくしはあのクズがわたくしの所まで来て以前のようにちょっかいをかけてくるだろうと身構えていたのだけれど、あのクズは一向にわたくしの所へ来ようとしないではないか。


 なんならわたくしが視線を向けると逸らし、敢えてわたくしから近づいてあのクズの化けの皮を剥がしてやろうとしても、あのクズは何故かわたくしから遠ざかっていくではないか。


「ねぇ、リリアンヌ……?」

「はい、何でしょうか? お嬢様」

「わたくしってもしかしなくともあのクズに避けられているのかしら?」

「はい。もしかしなくとも避けられていますね」


 違うでしょう……。


 違うでしょうっ!!


 本来であればカイザルのクズがわたくしの事を追いかけて、わたくしがカイザルのクズから逃げるというのが本来あるべき形ではないのかっ?


 これではまるでわたくしがカイザルに好意を持っておりアタックしているみたいではないかっ!!


 そしてカイザルの不可解な行動に心の中で頭を抱えているその時、どこからか視線を感じるのでその視線がどこから来ているのか探してみると、わたくしのお父様が『流石我が娘、カイザルの婚約者となる決心はついたようだな』といったような表情でわたくしを壇上にある席から眺めているではないか。


 今すぐにでもお父様の所へ駆けつけて『違うのですっ!! カイザルというクズの化けの皮を剥がす為に動いているだけであって、カイザルの婚約者として腹をくくった訳ではないのですっ!!』と叫びたい衝動にかられるものの、流石にこの場所ではそんな事はできないのでグッと堪える。


 それもこれも全てあのカイザルのせいである。


 あのクズがさっさと化けの皮を剥がさないのが全て悪い。

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