第128話 本当にあり得ない



 あり得ないあり得ないあり得ないっ!!


 何でわたくしがあんなクズと婚約しなければならないのよっ!! わたしにはもっと相応しい相手がいる筈なのに、それが国のしでかしたミスの尻拭いの道具としてわたくしの婚約というカードを切られなければならないのか。


 あんなゴミなど犬の餌でも与えてやれば良いのですっ!! 


 結局お父様にいくら文句を言っても婚約の話は覆る事も無く、わたくしは苛立ちを隠す事も無くその場から立ち去り自室へと戻るとそのままベッドへダイブする。


「お嬢様、はしたないですよ」

「リリアンヌ……何で私があんな奴の婚約者にならなければならないのかしら……? 絶対あり得ないでしょう……。今回の事件解決もアイツが解決したというのもおかしな話だとは思わないかしらっ? ぜったいに予め私と婚約を結ぶために仕組んだものに違ないなわっ!!」


 そして私は、私の護衛騎士であり同性で年齢も近いリリアンヌへと愚痴をこぼす。


 そもそもあのクズがこんな『衛兵の悪事を裁く』などという事ができる訳がないのだ


 それにその場で処刑または処罰をせずにちゃんと法の下裁くなどますますあり得ないし、あのクズが衛兵相手に勝てる訳が無いではないか。


 どの視点から見ても今回の件はきな臭いのである。


「確かに、私も今回の件は恐らくマッチポンプ───」

「そうよねっ!! 絶対にわたくしと婚約する為のマッチポンプに決まっているわよっ!!」

「──であり予めクヴィスト家に自警団を作る為の自作自演である可能性が高いと思います」

「……へ?」

「…………そうですね。お嬢様との婚約を狙ったマッチポンプの可能性あるかとは思います」

「やっぱりそうよねっ!! 姑息な手段を使って……ますますあのクズの事が嫌いになったわっ!!」


 本当にあり得ない。


 そもそもわたくしが初めてカイザルに会った時なんかは最悪の出会いであった。


 上から目線の態度、欲望を隠そうとしていないねっとりとした目で全身を眺めて値踏みするかのような視線、許可をしていないのに私の肩を抱いて寄せて来る行為、挙句の果てには頬へのキス、そしてそれら行為に対して『自分だから許されて当たり前』『俺に好意を抱かれた皇女は幸せだろう』と、自惚れている思考が透けて見える態度。


 どれをとっても最悪であったし、流石のわたくしも我慢の限界がきて思わずビンタをしてしまった程である。


 自分本位であり他人を常に見下し、自分は敬われて当たり前であるという態度、それら全てがわたくしからしたらあり得ないのである。

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