第119話 我慢の限界


 すると庁舎の外には黒いフリルの付いているドレスを着ている女性が俺たちの道を塞ぐように立っており、さらに俺たちに向かって『庁舎に戻れ』と指図してくるではないか。


 その態度に俺は苛立ちを覚える。


「いままで衛兵のお陰で平穏な生活をしてこられたというのに、その恩を仇で返すのかい? 嬢ちゃん。悪い事は言わねぇからそこをどけ」

「あらぁ、仕事をまともにしないどころかチンピラ風情の商人に丸投げするような人物が一丁前に良くそんな事を言えますわぁ。逆にその図々しさは私も見習わないといけませんわねぇ~」


 鳥の雛のように口を開けているだけで餌を貰えると思っているからこそ、底辺層の人間は嫌いなんだよ。その結果目の前の女のように勘違いしたバカがつけあがり、俺達衛兵に対して攻撃的な態度を取ってきやがる。


 なにが『俺達が収めている税で働いているんだから俺達の言う事を聞け』だの『税金泥棒』だの『何もしないで飯が食えて良いな』だよ。ならお前が衛兵になって働けばいいだろ。


 自分ができない、なれない、やりたくないにもかかわらず、その仕事をしてくれている人に対して、自分達の暮らしの平穏を守ってくれている者に対して、よく言えたもんだ。


 それは目の前で偉そうに突っ立っている女も同罪である。


「そうか……俺の言う事を聞けないってんなら、ちょっとくらい痛い目をみても仕方がなよなぁ。躾がなっていないバカは殴って身体に言い聞かせるのが一番手っ取り早いからな」


 なのでそういった勘違いをしているバカを躾ける事も我々衛兵の仕事であろう。


「あらぁ~。やはり頭が悪い人はすぐに暴力へ走るんですねぇ~。私のご主人様とは大違いですぅ~っ。 ですが…………暴力で解決するってのは私も賛成ですねぇ~っ!! 私も面倒事や頭を使う事は苦手なのでぇ~。でも貴方にはご主人様はいないけれども私には強さは勿論の事智謀にも長けているご主人様がいるんですもの~。その違いはやっぱり大きいですわねぇ」


 しかし目の前の女は俺の言葉を聞いて怯えるどころか、むしろ暴力沙汰になる事を望んでいるではないか。


 いくらなんでも女如きが男、それも常に鍛えている衛兵という職についており、それなりの死線も潜り抜けてきた俺に勝てる訳がないというのに……そんな当たり前の事すら理解できないからこそ、このような舐めた態度を取るのだろうと納得してしまう。


「衛兵長、流石にここまでバカにされては我慢の限界です。ここは俺があの女に現実を分からしてやっても良いでしょうか? あんな女に衛兵の長がわざわざ相手をする必要もないでしょう」

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