第109話 全く違う関係になってしまった



◆オリヴィアside



 クヴィスト家の領地に行くのはいつぶりだろうか……。


 どの面下げて、と言われれば返す言葉もないのだが、お父様から『クヴィスト家に行くけどオリヴィアも来るかい?』と誘われて断れる事などできよう筈がない。


 私の口からカイザル様へお会いしたいと立場上言える訳もないので、こういう機会を逃すと次はいつ会えるか分からないと思ってしまうと『合わせる顔が無い』と思うよりも早く首を縦に振ってしまう自分がいる訳で……。


 それに、今現在カイザル様と近しい間柄であるお父様が誘うのだから、私が訪問しても大丈夫と思っても良いだろう。


 そこでたとえ使用人達からの陰口が耳に入って来たとしても、言われて当然だとも思うし、何よりもそのような陰口をカイザル様は私の為にずっと耐えて来たと思えば苦でもないと思ってしまう。


 そんな事を思いながら馬車の中から眺める景色はあの頃と何も変わらないのに、私とカイザル様の関係はあの頃とは全く違う関係になってしまった。


 どうしてこうなってしまったのか。


 私が子供だったから? 端っからカイザル様の事を最低な男と決めつけて内面を見ようともしなかったから? プレヴォの内面に気付けなかったから? そもそも私が外面でしか人を評価できなかった事に気付けなかったから? etcetcetc……。


 あの日からそんな事を私は毎日考えてしまう。


 私がバカな事をしでかす前に戻れたらと何度思った事か。


 おそらく思いついたものは全て当てはまるだろうが、それら全てを直したところで私はもうカイザル様の婚約者にはなれない。


 だけど『だから努力をしない』と、努力する事を諦めてしまう事は、カイザル様が私の為に悪評が流れてしまう事にも厭わず、文句の一つも言わず、態度にも出さずに堪えて婚約破棄をしてくれたことを考えると、最低の行為であり、そんな選択肢は私が私を許せそうにない。


 むしろ成長した私を見てカイザル様が『あの時悪者になってでも婚約破棄をして良かった』と思ってくれるくらいの女性になる事が、私が唯一出来るカイザル様への恩返しであろう。


「どうやら少し先で何やら揉め事が起きているようだね。これは少し時間がかかるかもしれないね。どうせだしこの時間に露店でも一緒に見て周るかい? 今日は護衛をいつもより多く連れてきているし、露店を見て周るだけならば大丈夫だろう」

「そうですね……っ」


 いつもであれば馬車の中で待つところなのだが、今日は何だか外に出た方が良いと、理由は分からないのだがそう思えたので、一旦馬車から降りてお父様と露店を見て周る事にする。



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