閑話:奴隷の想い2
第104話 ただ生きているだけ
◆とある奴隷side
ご主人様より私たちに『死の森を開拓するから、そのメンバーを十名ほど選びたい』と声をかけられて真っ先に私は手を挙げた。
これで私もアーシャさんやヘプタさんのようにご主人様の役に立つことができると意気込んでいたのだが。希望数がご主人様の予定していた人数よりもかなり多かったらしく開拓に関しては三か月ごとの交代制にするそうである。
こればかりは仕方が無い事である。
私たちは閉鎖的な村が嫌で街に出れば何かが変わると思って飛び出してきたものの手に職が無いため娼婦として生きていくしかなかった者も多く、それは言い換えると山や森などの中にある村から移住してきた者も多いという事になる。
結局街に出て何が変わったかというと、何も変わっていない、むしろ村で過ごしていた方がまだ良かったとさえ思う場合もあるくらいである。
それでも、自分で選んで自分の足で歩くと決めた道なのだから、その選択をした誇りやプライドは村で過ごしていたらきっと手に入らなかったものであろう。
それでも、誰かに助けて欲しいと心の中で叫んでいた私に、私たちに手を差し伸べて、先の見えない、一歩先には地面が無く奈落の底に落ちてしまうのかも分からない人生から救ってくださったのである。
それも手にした誇りやプライドを、自らご主人と共に選ぶという選択肢を取らせる事で捨てるような事もなく。
ご主人様ほどの力を持っていれば私たちの事なんか簡単に無理やり奴隷にする事など容易だろうに、私たちに選択肢を与えてくださった。
それはご主人様からは取るに足らないくだらないことかもしれないし、私たちのような存在を助けるだけならば、強引に奴隷に墜とした方が『生き長らえさせる』という点だけで見れば治療もしてくれるので効率的にもかかわらずである。
しかしそれは、私たちにとって家畜となんら変わらず、村の中で『ただ生きているだけ』という状況と何ら変わらない。
勿論、それが良いと思う人がいるのは今ならば理解できるのだが、当時の私はそれが生きながら死んでいるように見えたし、いまもその考えは変わらない。
おそらくご主人様はそこまで考えていないのかも知れないのだが、そのほんの小さな配慮が、私がご主人様の奴隷となる決め手であったし、ここ最近調子が悪いと思っていた体調も治療のお陰でかなり良く、更には奴隷であるにも関わらず『知識や教養』も与えてくださったのである。
それは、私が喉から手が出る程欲しかった二つであり、そのような物は一生手にする事もなく死んでいくのだろうと思っていた。
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