第103話 悪魔にだって魂を売るだろう
そして俺は今現在、父親から手切れ金として渡された金貨十枚を一週間で使い切っており、食事は三日食べておらず、実家にいた頃は鍛えていたにも関わらずただの平民に突き飛ばされただけで踏ん張る力すら無く無様に突き飛ばされた勢いのまま地面に突っ伏してしまう。
そもそも手切れ金として金貨十枚など少なすぎるだろう。
こんな金貨の枚数では、本来の俺の生活では四日過ごせれば良い方なのを、節約して一週間も伸ばしたのである。
何故このおれが節約などしなければならないのだ。
真実の愛を誓い合った中のオリヴィアは何故かカイザルに熱い視線を送っている所を見るに、何故かあれ程にまで婚約関係を解消したいと言っていたにも関わらず、何故か俺たちの作戦が失敗した瞬間に俺からカイザルへと乗り換えようとしているのが見え見えであった。
それでも、俺はその事からは目逸らして気付かないふりをして過ごし、親から縁を切られた時にオリヴィアを頼ろうとしたのだが、家の門すら開けてもらえずにオリヴィアに会う事すらできず衛兵に追い払われてしまう始末。
おかしいだろうっ!! というか何で俺と共犯者であるオリヴィアはまだ貴族の娘として縁切りされずに生きているんだよっ!? 俺が平民に堕ちたのならばオリヴィアも平民に堕ちるべきではないのかっ!? 不公平ではないかっ!!
そう叫んだ所で返答などある筈もなく、行く当てもなければ冒険者などという低俗な仕事をしたいとも思わない、かといって他に金を稼ぐ方法も思いつくこともできずに今に至るという訳である。
なんで俺がこんな目に合っているんだ……? どこで俺は間違えた?
そう何度も何度も考えてみても、的確な答えは未だに分からないままである。
「将来帝国七騎士になれる素質があると期待されていた神童の一人とは思えない程惨めだな……」
「……誰だ、お前?」
突き飛ばされた身体を何とか起き上がらせてふらふらと行く当てもなく歩いていると、誰かが俺に声をかけてくるではないか。
「俺か? 俺はロイス聖教会、聖騎士団団長であるユーグ・ド・イアンである。今ちょうど実力者を補充したいと思っていたところなんだよ。どうだ? お前レベルであれば正式にロイス聖教会の聖騎士団に入隊させてやっても良いぞ?」
「……………そこに入れば俺は今よりも、あのクズよりも強くなれるのか?」
「ふむ、そのクズが誰なのかは知りませんが、人のままでは決して手にする事ができない力を手に入れると誓う。どうだ?」
おそらく以前の俺であれば鼻で笑ってこの勧誘を断っていただろう。
だが、今の俺はカイザルを殺せる力が手に入るのであれば悪魔にだって魂を売るだろう。
そして俺は差し出された男性の手を握るのであった。
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