第99話 望んでいる未来
そう言うとサラは渡された果実を食べて複雑そうな顔をする。
「何よ……美味しいじゃないのよ……」
「ここで魔獣と争うよりも、魔獣と手を取った方が死んでいった者達の意味もあったと思えるんじゃないのか?」
「……うるさい」
そして俺は何だか納得できていないような、メリットは分かるけど飲み込めないといった表情をしているサラの頭を乱暴に撫でるのであった。
「それで、このボードですが、これが方角、ここが距離、そしてこの項目が実際に今起きている問題であり人の手を借りたい内容となっている。このボードを四カ所に設置しておくから定期的に確認してくれ。また、緊急時用の鐘も設置しておく」
「なるほど……。そして報酬として魔獣たちの果実を収穫することができるという訳ですな……」
「そうだ」
「しかしながら……言いたい事は分かるのですが気持ちの整理が私にはまだできません……」
そして魔獣たちとはある程度話し合ったあと、一度村に戻って魔獣たちとの共存そしていく事についてと、その為に必要な事を、村人たちを村長の家に集めて伝えるのだが、やはり頭では理解できるもののサラ同様に死んでいった者達の事を考えると感情が追いついてこないようである。
「そういう村長の気持ちも理解できるし、そう思う村人が多い事も表情を見れば分かる。だがここは魔獣たち側に立って考えてみてはどうだ?」
「……というと?」
「魔獣と言えども俺たちと意思疎通が可能であるという事はそれだけの、それこそ俺たちと変わらないくらいの知能はあるという事だ」
「…………」
「ならば魔獣たちからしてみれば平穏に暮らしていたところに、急にドラゴンによって森の一か所と仲間たちを燃やされ、そのドラゴンが去って落ち着いたかと思うと次はその開けた場所に人間が住み着き自分達の住み家を破壊し始めたので反撃したら仲間は殺された。それでも人間側から手を出さない限りこちらからは手を出さなかったし、今回の件も共存をする事に同意してくれた」
「……………………っ」
ここまでそれっぽい事を話してみれば、あともう一押しで村人たちを納得させられそうだと、今話している村長は勿論周囲で俺の話に耳を傾けている村人たちの表情をみてそう判断した俺は、ここで一気に畳みかける事にする。
「だがお前達人間は、そっちから仕掛けて来たのに逆恨みをして、こっちはそれを仲間の死も踏まえて飲み込んで共存の道を選んだのに『魔獣とは手を取れない』などと言うのか? ……と、俺が魔獣ならそう思うね。そもそも村の規模と森の規模、そして魔獣の数と強さを考えれば我々人間の方が魔獣たちの慈悲によって生かされ続けてきたとは思えないのか? 魔獣たちは仲間を殺されても復讐という手段は択ばなかったが、人間はそんな相手から差し出された手を払いのけて唾を吐きかけるような事をするのか? それは死んでいった者達が望んでいる未来なのか?」
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