第73話 怒りの感情が湧いてくる



 もし拮抗した者同士の戦いであれば、もっとこの部屋は荒らされていてもおかしくないのだが、気持ち悪いくらいに荒れている個所と綺麗な箇所に分かれている所を見るに、強者の攻撃によって吹き飛ばされたり攻撃の余波だったりで荒れたものの手数が少ない為綺麗な所は綺麗なままといった感じだろう。


 問題は強者がどちらかである。


 この裏組織にはどんな攻撃であろうとも弾く鋼の肉体と、鍛え上げられた肉体から放たれる物理攻撃を持つブレット・モーデルに影を操りどんな攻撃であろうともまるで影を相手にしているかの如くすり抜けられ、何処へ逃げようとも自身に影が付いている以上逃げる事すらできないスレイヴ・トレドの二人がいるのだ。


 もしそのどちらかがこの部屋で『一方的に倒された側』であったとしたならば……どれほどの化け物だというのか……。


 いや、流石に無いか……。


 むしろこれは、恐らくここで殺された馬鹿が名声欲しさに本拠地を私と同じタイミングで見つけ出して自分の力を過信しそのまま突撃、返り討ちにあったと考えるべきだろうし、この方がしっくりくる。


「……何してくれるんだ……っ!」


 もしかしたらこの裏組織、特に上二人であるスレイヴ・トレドにブレット・モーデルであれば私の兄を殺した者の存在を知っていたかもしれないのに……。


 そう思うと私は恐らくここで殺されたのであろう、この誰かも知らないバカに対してふつふつと怒りの感情が湧いてくる。


 その、吐き出す場所のない怒りの感情を抱えながら私は先に進んで行く。


 もうこの段階であれば間違いなく裏組織の本拠地は別の場所へ移転している事は間違いなく、それはこの顔すら知らないバカのせいで今までの私の苦労が水の泡になってしまったという事でもある。


 また一から調べなおさなければならないと思うと、更に怒りが増してくる。


「……うん? ここにも誰かが戦った痕跡がある……? 何故……まさかっ!!」

「……あら? ネズミが入って来たかと思えば……アイーダ・ウジエッリ、あなたですか」


 争った痕跡が二か所もある。


 それが意味する事は初めにみた争った痕跡で勝ったのは侵入者の方であり、あの場所でスレイヴ・トレドかブレット・モーデルのどちらかが一方的に負けたからこそ二つ目の争った痕跡ができたという訳である。


 その事に気付いた私は一気に背筋が凍ってしまいそうな程冷たくなるのと同時に、直ちにこの場から逃げなければと直感的に思い、それを行動に移そうとしたその時、何処からか私に話しかけてくる者がいるではないか。

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