第72話 普通に考えればありえない



 私の予想では、まずあんな反応は出来ずに奴隷メイドを囮にして逃げていただろう。


 しかしながら実際はどうだ? 私よりも早く反応して奴隷メイドを助けようと動いているではないか。


 普通に考えればありえない。


 そもそもカイザルは学園でも成績は下から数えた方が早いほどの実力しかないような人物である。


 はっきり言って悪名が広まっていなければ名前すら私は覚えていなかったようなそんな人物である。


 そんな人物が私よりも反応が早い等ありえる筈がない。


 そもそもこの学園に私と同等の存在と言えば生徒会のメンバーと、次点で生徒会補佐くらいであり、さらにその中でも私の反応速度について来れるものなどいないと自負している。


かたやカイザルはこの学園にとって無能、低能代表として有名であり、そんな人物が本当に私よりも早く反応する事ができたのか?


 たまたま何となく、何かを察したのかあのタイミングで動いただけと考えた方がまだあり得るだろう。


 この時はそれしか答えが思い浮かべる事ができず、結局あの反応はまぐれだったのだろうという結論に至った。


 しかしながら、時間が経つにつれて私の中に違和感が残り続けて、本当にあの反応はまぐれだったのか?


 あの時のカイザルの反応は、まぐれでも何でもなく、確かに『相手の動きを読んだ上での反応』としか思えないのである。


 そんな事を考えていると、日は傾き授業は終わり放課後となっていた。


「ダメだ。あんな低能男の事で一日無駄にしてしまった……。もうあの男の事で悩むのは止めよう、時間の無駄だ」


 それもこれもあの時真実を知りたくて声をかけたにも関わらず『すまん、今は用事があって忙しんだ』とはぐらかされたカイザルのせいである。


 アイツがちゃんと真実を教えてくれればこんなに悩む必要も無かったと思うと無性に腹が立ってくる。


 駄目だ駄目だ……今はあんな男の事よりも帝国の裏で他国と繋がり人身売買を行っている裏組織の本拠地が分かったので、偵察に行くというのに、こんな事で思考が散らばってしまっては変な所で初歩的なミスをしかねない……。


一瞬の油断が死に直結する世界である為私は頭を振って思考をクリアにして本拠地へと向かう。


「……おかしい」


 しかし、本拠地に近づいても組織の一員らしき人物に当たらなければ、実際に本拠地内部に入っても誰も居ないではないか。


 何かがおかしい。


 もしかしたら私がこの裏組織の本拠地を探っていたのがどこからか漏れてしまい、別の所へ本拠地を移転した可能性が出てき始めた。


「くそ、少し遅かったか……」


 それでもまだ逃げ遅れた奴らがいる可能背も考え、万が一罠である可能性も考慮しながら慎重に進んで行く。


「これは……血、何者かが切られたのだろうがこの部屋の惨状を見る限り両者の実力差がありすぎる……?」

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