第69話 誰よりも強くならなければならない
そして俺は殺気を隠す事もせずに蛆虫に近付き、顔と顔がくっつきそうな程の距離でドスを聞かせて優しく話してあげると、蛆虫は俺の言いたいことを理解してくれたのか床に黄色い湖を作りながら力なく崩れ落ちていく。
うん。初めからこれくらい素直になっていればこんな大勢の前で羞恥を晒す事もなかったと言うのに、本当に馬鹿な男である。
「ちょっと良いだろうか?」
そんな時、騎士団長の娘でありこの学園の生徒会長でもあるアイーダ・ウジエッリが話しかけてくるのだが、このような状況で話しかけてくるあたり面倒事な臭いしかせずにどうやって断ろうかと頭を悩ませるのであった。
◆アイーダside
私の兄は私にとってヒーローだった。
私が兄の真似をしても兄だけは女だからとバカにすることも、女らしくしなさいとも言わなかった。
そして誰よりも強く、次期帝国騎士団長兼帝国七騎士であるお父様の後を継ぐものだと思っていたし、その力を弱き者の為に使うお兄様がとても誇らしかったし、私もお兄様のようになりと強く思った。
そんなある日、雷鳴が鳴り響く豪雨の中、兄は私の目の前で殺されてしまった。
殺した者の顔は雷の光によって一瞬だけ確認できたのだが、逆光のため分かったのはあの狂ったような目と、身長が百八十センチほどの金髪の男性、そして兄を殺す時に使った見た事も聞いた事もない攻撃スキルという事くらいである。
この国で身長百八十センチで金髪の男性はあまりにも多すぎる為、とてもではないが特定できるほどの情報ではないが、あの目だけは今も鮮明に覚えており、一目でも確認できれば特定できる自信がある。
それからの私は女というのを捨てて兄の代わりとして必死に生きて来た。
両親からは女性としての幸せを望んでいた事も分かっていたし、嫡男が居なくとも私さえいれば他所から子種を貰い、家を存続する事は可能である。
その為両親は、勿論私の幸せを第一に考えてくれている事は勿論伝わっているのだが、その感情の裏に『私が兄のように死んでしまったら家が潰えてしまう』という感情もある事も知っていた。
しかしそれらは親として、貴族として当然の考えである為私は口うるさい両親をどうこう言うつもりはない。
むしろなんだかんだ言って女性である私に兄の真似事をしているのを続けさせてくれている時点で感謝しかない。
そう、狂っているのは未だに復讐心に囚われている私の方だという事も理解している。
だからこそ私は誰よりも強くならなければならないのだ。
当時の兄は帝国七騎士と同等レベルと言われ始めていた、そんな兄を殺した者へ復讐すると誓ったのだから生半可な努力では到底復讐など無理だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます