第36話 お前が犯したミスは三つだ



 しかも、この俺を廃嫡して出来損ないの弟を嫡男にするなど、どう考えても頭がおかしいとしか思えないような事をしやがって……。


「お父様は何も分かっていないっ!! この俺様の言う事だけを聞いていれば全てが上手くいくというのに何故それが分からないのですかっ!? この俺はこの家を継ぐためにどれだけの努力をしてきたと思っているのかっ!! 周囲から良く見られるようにうざい奴にも良い顔をして、不細工な女にも優しくし、足手まといで馬鹿な奴にも手を差し伸べるなどやりたくもない事を将来継ぐ家の為と思い努力をしてきたっ!! それは当然周囲からの見られ方を意識するだけではなく、武術や勉学に関しても見下されないよう常にトップを維持し続ける努力をしてきたというのにっ!! それなのに今までの努力はたった一度のミスで全てが無意味となり、廃嫡され、俺よりも出来損ないの弟を嫡男とするのですかっ!?」


 そして俺はこの際だからと今まで溜めて来た想いをお父様、いや、この俺を評価しないバカな大人にブチ撒ける。


 すると、お父様はこの俺の言葉に聞く耳を持つどころか、バカな者を見るかのような目線を俺に向けたかと思うと手で顔を覆い、深いため息を吐くではないか。


 それは明らかに『出来損ないの、頭の悪いバカな息子を相手にする親』そのものではないか。


「で、今のお前は何だ? たった一度のミス? あぁ。人は誰もミスはする。今回お前がやらかしたミスは庇いきれるものではなかったが、今までの功績も考え『魔が差しただけ』と思い目を瞑る事にしようとした。だからこそ本来であれば縁を切り、家を放り出すところを家に置いて学園にも通わせていたといのに、お前はその程度の事も理解できない程のバカだったとは……。そもそもお前が言う努力全ては、本来であれば貴族の嫡男として当たり前のことであり、そんなものを努力と言って威張るような物ではないと何故分からないのか……。分からないからこそこんなバカな事をしでかしたのだろうと今ならば理解できる。それに、貴族社会に出ればたった一度のミスが文字通り命取りになるというのに……生きていられるだけでもありがたいと思えないどころかこの俺に噛みついて来るとは、そんな事すらもお前は理解できていなかったようだな……。最後に、お前が犯したミスは三つだ。この俺の名を騙って勝手に契約を交わした事。お前の話が本当であれば貴族間の決闘、それもあのカイザルに負けた事。そして、ドゥアーブル家の家督であり侯爵家の爵位を持つこの俺に楯突いた事だ。お前、親だ何だと思って偉そうに講釈を垂れていたが、誰にものを言ってるのだ? 爵位も継いでいないお前が」


 今まで生きてきた中でこれほど怒っているお父様を見た事が無い。


 まさかここまで怒る事だとは思っておらず、本来であれば俺の廃嫡を撤回して嫡男へと戻し、カイザルへ復讐する為にいろいろと対策をしてくれるものだと思っていた分、俺は怯んでしまい返す言葉が出てこなかった。


 そして気付く。 先ほどお父様は『最後に』と言ったのだ。



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