第21話 そんな気がしてならない


 それを断定できる程の根拠も証拠も無い以上もしかしたら私がそう思っているだけで実際は全く違うかもしれないのだけれど、なんだかそんな気がしてならない。


 でなければ私を助けたりなどしないだろう。


 もしかしたらロレーヌ家の領地再建するための口実として私と婚約した事にカイザル様が負い目を感じてしまっているのかもしれない。


 それは、申し訳ないという感情は勿論あるのだが、それとは別に『どんな理由であれ私の事を見てくれている』と思うと嬉しく感じる私がいる事に驚くのだが、なんでそんな感情が湧くのかを確かめると後戻りができない気がして、その後その感情に関しては深く考える事はしなかった。



◆カイザルside



「麦焼酎作りは順調のようですね、カイザル様」

「あぁ。売れ残っていた麦がかなりの量あったのはロレーヌ家にとって不幸中の幸いというべきか……。本来であれば麦を収穫するまで麦焼酎作りは待たなければならなかった為、それを考えると、今年の収穫を待たずに作り始めることができるというのはかなり有難い」

「そうですね。その間早く領民は酒蔵つくりや麦焼酎作りという職に手を付ける事ができますからね。それだけで餓死者の数もかなり変わってくるだろう。本当に、カイザル様にはなんとお礼をすれば良いものか……。本来であれば私の娘を貰って頂きたいと言えれば良かったのだけれども…………」

「それに関しては強引に婚約へと持ち込んだ俺のせいでもある。それに当人が嫌がっている以上再度婚約をする事はどうかと思うが、それ以上の感情は持っていないので気にしなくて構わない」

「そう言って頂けると私も少しばかり心が軽くなります……」


 あれから一か月の期間が過ぎた。


 急遽簡易ではあるものの酒蔵が建てられ(俺のストレージから組み立てるだけのキットを購入し、それを組み立てるだけではあるものの良くできた酒蔵だと思う)、マリエルの指示の下麦焼酎作りが既に始まっていた。


 因みにオリヴィアとプレヴォの婚約は、当然無効化され、クヴィスト家が寛大な処置を取った為無罪ではあるもののオリヴィアもプレヴォも将来貴族の嫁、または貴族として生きていくのは無理だろう。


 というかオリヴィアを娶るような貴族はいないだろうし、プレヴォに関しては嫡男を次男にするようである。


 流石に当主の振りをして偽造書類をつくり、皇帝陛下を欺いたのだから表面上は無罪と言えども、だからと言ってそれがまかり通る程この世界は甘くはない。


 通常ならば死罪でもおかしくないのを温情によって『この程度で許してくれた』と思うべきだろうが、プレヴォ本人がその事に気付いていなさそうなのが大人たちの思いを無下にしているようでやるせなく感じてしまう。


 ある意味で若者らしい思考と言えばそうなのだが……。


 というかバレない悪事ならばいざ知らず、すぐばれるような悪知恵を実際に行うような相手と一緒に手を組みたいと思う貴族はいないだろう。


 下手に関わって火の粉が飛んで来たら大惨事である。


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