第20話 辻褄が合う


 しかしながら、現実は私の思い描いた絵空事のように行くわけもなく一家全員殺されかける寸前まできていたとお父様から聞かされた時は流石の私も血の気が一気に引いていくのが分かった。


「そ、それで……クヴィスト家は許してくれたのでしょうか?」


 そして私は震える声でお父様へ、クヴィスト家の出した答えを確認する。


「クヴィスト家は許してくれなかった……」

「そ、そんな……っ」

「しかしながらカイザル様は許してくれ、命までは奪わず金貨三千枚を返還するという条件で許してくれたさ……。しかも今のままでは我が家の稼ぎでは借金を返すどころか更に借金を増やしかねない状況である事までお見通しであったカイザル様が、その改善案を出してくれ、その改善案を実行する為の援助までしてくれると言ってくれたのだっ!! あのお方が嫡男であるクヴィスト家が心底羨ましいよ……。ああいうお方を神童と呼ぶのであろうな。今までその才能を隠してきたのも、きっと汚い大人たちから自分を守る為の演技であったと、その才能に触れた私だからこそ理解できる……っ」


 お父様は私の問いに対して『クヴィスト家は許してくれなかった』と言った時は膝から崩れ落ちそうになったのだが、どうやらそうではないらしいと知りホッと胸を撫で下ろす。


 お父様曰く、どうやらカイザル様のお陰で私たちは『金貨三千枚を返す』という事で話がついたようだ。


 そんなもの、クヴィスト家からすればもともとクヴィスト家の金貨であった為メリットにすらならず、私と婚約したばっかりに時間と労力を消費した上にカイザル様には『婚約者に逃げられた男性』という噂がついて周る事を考えればあまりにもデメリットの方が大きすぎると思ってしまう。


 しかもそれだけではなく、カイザル様が私たちの領地を立て直してくれると言うではないか。


「ほんとに、あのようなお方との婚約を破棄して……本当に馬鹿な娘だよ。むしろカイザル様の本質を知った今では金貨を支払ってでも娘と婚約させたい程だ……」


 そして私は思う。


 もしかしてカイザル様が私に対して酷い対応をしてきたのは、私がカイザル様との婚約を良く思っていない事が伝わっていたので、婚約破棄しやすいように誘導し、それで私が実際に婚約破棄をする事によって我が家に降りかかるであろう災難を、カイザル様自ら防ぐつもりだったのでは?


 と思ってしまう。


 流石に考えすぎだとも思うのだが、私がカイザル様に婚約破棄を告げた時、いつものカイザル様であれば怒り狂うと思っていたのだが、実際は拍子抜けする程何事もなくすんなりと終わった事と辻褄が合う。

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