第18話 見えないように蓋をする


 今であればあの横柄な態度が演技であったという事は理解できる。


 本当にあのような態度と言動をするような人物だったのならば、間違いなく私を盾にして一人だけ逃げてしまうだろうし、なんなら人目が無いのを良い事に私は犯されていたのかもしれない。


 しかしながら実際にはダンジョンが変化し始めたばかりの時、真っ先に私を助けてくれたのはプレヴォ様ではなくてカイザル様であり、プレヴォ様は私を助けるのではなく今回の異変をカイザル様のせいにして暴言を吐いていたし、これだけ強いのであれば私を襲うだけの余裕があるにも関わらず今も私を庇いながらダンジョンを探索してくれている。


 プレヴォ様は婚約が決まった瞬間に態度が横柄になり始め、カイザル様は婚約破棄の後にあの横柄な態度が偽りであったと知ってしまうあたり、きっと私は男性を見る目が無いのだろう。


 そして、今現在カイザル様はダンジョンのボス部屋で討伐ランクS級の、赤い鱗のドラゴンと戦っているではないか。


 普通であれば絶望的な状況であるにも関わらずカイザル様はまるで『やっと骨のある敵が現れた』といった、嬉しそうな表情をしながら魔術を使わずに、何故か剣だけで戦っているではないか。


 その姿はとても美しく、まるでドラゴンとダンスを踊っているようで、思わず見入ってしまう程に美しく、私の胸の鼓動は少しずつ早くなっていくのが分かる。


 きっと今の私を鏡で見ると頬が赤く染まっており、目は潤んでいるであろう事が簡単に想像できてしまう。


 おそらく非現実的な体験だけでなく、死ぬかもしれないと本気で思った私は、自分が思っている以上に興奮してしまっていたのかもしれない──と、この時の私は判断して、胸の奥で燻ぶり始めた感情は胸の深くへと押し込み、見えないように蓋をするのであった。





「大丈夫かっ!? オリヴィアッ!! カイザルの奴に何かされなかったかっ!?」


 あれからカイザル様は難なくドラゴンを倒し、その勢いでおぞましい姿の、とてもではないが人の手ではどうにもできないレベルであるという事が私でも分かってしまう程のダンジョンマスターまで討伐すると、そのままダンジョンを制覇してダンジョンコアを制御下に置いたあと少しばかり操作して地上へと戻って来た。


 外には私たち以外の生徒全員がおり、プレヴォが駆け寄ってきて心配してくれるのだが、そのプレヴォのかけてくれる優しい言葉とは違い、プレヴォの瞳には怒りや苛立ちが見て取れた。


 それを言葉にするのであれば『面倒事を起こしやがってこのバカが』といったところだろう。


 カイザル様と一緒にダンジョンに取り残されなければ、きっとプレヴォの内心にも気付かず呑気に過ごしていただろうし、もしかしたら気付けないまま過ごした方が幸せだったのかもしれない。

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