第17話 言葉が見つからなかった


 カイザル様と二人というのは精神的にきつかったし、ダンジョンの中で閉じ込められてしまったという事で頭が真っ白になりかけるも、ここで私がパニックになったらカイザル様も私も魔物に殺されてしまうと思い、必死に精神を安定させてなんとかダンジョンの中を進んで行く。


 幸い湧き出てくる魔物たちはスライムやゴブリンくらいで安心してしまい、集中力が途切れてしまっていたのだろう。


 本来であれば高ランクの魔物と遭遇しないように意識を集中してダンジョンの中を探索していかなければならないのに、それを怠ってしまったせいで討伐ランクCという、今の私ではどう足掻いても勝てない魔物と出会ってしまった。


 そして、私では倒せないという事は、魔術も武術も成績はあまり良くないカイザル様では当然勝てないだろう。


 なので私はカイザル様だけでも逃げてもらおうと、そう言うのだが、それを聞いたカイザル様は何故か私を庇うように前に出てくるではないか。


 そんなカイザル様を強引に引き下がらせようと手を伸ばすのだが、その手がカイザル様を掴む前にサラマンダーはカイザル様の魔術によって細切れになってしまう。

 

 それだけでもかなり驚愕なのだが、サラマンダーを一瞬でバラバラにしてしまう程の魔術をカイザル様は無詠唱で行使している事に、私は更に驚く。


 そこからは、私ではなくカイザル様が先頭に立ち、高ランクの魔物を次々と一瞬で屠っていくではないか。


 流石に討伐ランクAの魔物を軽く屠り始めたところで私は我慢できずにカイザル様へ『何で今までその力を隠していたのか?』と、気が付いたら聞いてしまっていた。


 するとカイザル様から『他人の評価などくだらない』という返事が返ってくる。


 今までのカイザル様から考えて、まともに返事を返してくれないと思っていた私は、ちゃんと返事を返してくれたことに驚くのだが、それと同時にその返事の内容に心臓をぎゅっと掴まれたような感覚を覚える。


 カイザル様は私を含めて他人を一切信用していないという事がその返事から伝わってくる。


 カイザル様の過去に何があったのかは分からないのだけど、それでもちゃんと評価されればカイザル様が無能だと罵られる事は無くなると思った私は、何も考えずにその事を聞いてしまった。


 そしてその問いにカイザル様は『そんな戯言を誰が信用するんだ?』と返してくるので、言い返そうとするも私は言葉が見つからなかった。


 そもそも私こそカイザル様の内面を見ようとせず、あの横柄な立ち振る舞いが演技であるという事すら気付けなかったのだから。

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