第8話 人工知能児童虐待
因みに、何故前世で使用していたマリエルをストレージから取り出す事ができたのかというと、そもそもこのストレージが前世で使用していたストレージだからである。
このストレージなのだがこの世界とは別の次元にある為、前世で過ごしていた星と今世で生きている星との物理的距離など関係なく『使用者が本人であるか、または使用者が設定したパスワードを知っている者』であれば利用できるという設定にしていた。
そして運が良いのか悪いのか、前世では国家魔術師ではあったものの結婚はしておらず、そして当然子供もいなかった為、このストレージを継ぐ相手が居なかったのでストレージの中身はあの時のまま全てが入っており、その中にあったマリエルを取り出したという訳である。
さらにこのストレージなのだが、前世のネットにも繋がっておりネット通販で購入した商品はストレージを通じてすぐに手元に届くという便利な能力である。
その為前世では割とポピュラーな能力であり、脳に埋め込まれたチップを介して直接使用方法を叩きこむという方法で販売もされている能力の一つである。
それと比べてこの世界は未だに魔術書に記載している魔術しか習う事ができず、しかも覚えられるかどうかはその人の才能によるところが大きいときている上に、そもそも識字率も前世と比べてかなり低いというのと比べると、いかに前世とこの世界との技術的な差があるかという事が分かる。
前世で習った歴史の授業でいう所の数千年前の世界と同じくらいではなかろうか。
「おはようございます、マイマスター。何故何年もこの私を放置していたのでしょうか? もしそのせいで錆びてしまっていたのでしたら高級自動メンテナンスに出してもらいますからね? あ、良く見ればなんだか爪の先が一ミリだけ錆びているようないないような気がしないでもないような……」
「いや、そうは言われてもこっちはそもそも死んでおり前世の記憶も思い出したばかりなんだから仕方がないだろう?」
「……ですが、記憶を思い出してから半日以上は経っていますよね? これは人工知能児童虐待なのでは? 通報しますよ?」
「いや、人工知能児童虐待ってなんだよ? 初めて聞いたぞ、そんな言葉。そもそもマリエルは児童でも無いだろうに……まったく、高級オイルを買って上げるから機嫌を直してくれないか?」
「……三本っ」
「分かったよ……ほらっ」
そして数年ぶりに起動したマリエルなのだが、かなりご立腹のようであるので機嫌を直してもらうために高級オイルを三本ネット通販で購入してストレージから取り出すとマリエルへと渡す。
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