第6話 キツイものがある


「ほう、という事はそちらの娘と、そして新たに婚約した相手を私印不正使用罪の罪で豚箱にぶち込んでもらえるという事かな? まぁ、ただ豚箱にぶちこまれるだけならばいいのだけれども不正使用した印鑑は貴族のものだからな。どうなる事やら」

「そ、それだけはどうにか……っ!!」

「約束を反故にして、金貨は返せない、娘は豚箱に送りたくない……これで『頭を下げるのでチャラにして欲しい』などとは虫が良すぎないかい?」


 そして土下座し続けているオリヴィアの父親に対して俺の父親であるダグラスがネチネチと嫌味を言い続ける。


「まぁ、まぁお父様。今回の件に関してはここらへんで手を引きましょう。俺の事をそこまで嫌っている相手と結婚しても幸せとは思えませんしね」

「……カイザル様っ!!」

「……お前はそれで良いのか?」


 とりあえずこのままだと俺の父親であるダグラスにオリヴィアの父親が殺されかねないので、ここらへんで止めに入る。


 以前の俺であれあばまだしも前世の記憶と価値観を引き継いでしまった今の俺はそれを望まない。


「はい。ですが、ただで引き下がると周囲の貴族達からバカにされかねないのでそれ相応の対応、我が家に利益をもたらす方法はちゃんと考えております」

「ほう、流石わが息子ではないかっ!! 良いだろうっ!! お前のやりたいようにやりなさい。それもまた貴族としての勉強だと思えっ!!」

「ありがとうございます。お父様」

「シュバルツよ、長い付き合いだったな」

「ちょ、待ってくださいっ!! ダグラス様っ!!」

「フン、我が息子の礎となれ」


 とりあえず父親へは『我が家側が引き下がる為の対応(報復)はしっかりと考えているので俺にやらせて欲しい』というと、父親は嬉しそうに笑いシュバルツが引き留めるのも無視してこの場から去っていくではないか。


 俺がどういう報復をするのか聞いていかないあたり、信頼しているのか、それとも今回の件の被害者は息子である為、どのような報復であろうとも息子の好きなようにさせようと思っているのかは分からないのだが、ここに父親がいなくなったというのはこれから起きる事の説明を省けるという点で言うと好都合であると言えよう。


「さて、シュバルツさん」

「ど、どうか命だけは……っ!!」


 オリヴィアは、自分のしでかした事によって父親が土下座をし、一回り以上年下の俺に懇願する事になったという事を理解しているのだろうか? いや、理解していたのならばそもそもこんな事にはなっていなかっただろう。


 婚約破棄をするにしてもやり方というものがあっただろうに……。


 ある意味で娘の教育に失敗したとも言えるので自業自得ではあるのだが、大の大人が涙や鼻水を垂らしながら懇願する姿を見るのはキツイものがある。

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