第5話 土下座など安いものだろう


 なので俺は現実を突きつけてやる事にする。


「そうか、まぁお前たちがそうしたいのならばそうすれば良いさ」

「……なんだ? やけに素直だな。お前らしくもない」

「愛し合う二人の邪魔をするのは野暮というものさ。俺もそれくらいの配慮はできる」


 そう俺が言うと二人は見て分かる程に安心しているのだが、それを見てこいつらはこんな程度の思考でしか物事を考えられないのかと、この先貴族として生きて行けるのか心配になってくる。


「フン、分かってくれたようで何よりだ」

「ちょっと待てよ。話はまだ終わっていない」


 そして、話はもう終わりだと思ったのかプレヴォはこの場から去ろうとするので引き留める。


「あ? なんだね? これ以上何か話し合う事など無かろう?」

「婚約破棄をしたという事は、俺の実家がプレヴォの実家に俺と婚約する事で融資する事にした資金は当然返還して貰えるんだろうな? まぁ、たったの金貨三千枚程度だから大した額ではないんだがな、それでも約束を反故にされた以上返還してもらわないと、我が家はオリヴィアの家を詐欺罪として訴えなければならなくなるなぁ?」

「え……あっ、そ、そんな……っ」

「お、お前……クズだクズだと思っていたがここまで屑だったとは……っ!!」


 いや、どう考えてもお前たちの方がクズだろうとは思ったのだが、言い返したところでこいつらが金貨三千枚も返す当てがない事くらい分かっているので、返すとも言えず、かといってそれを認める訳にもいかない為感情論で押し切ろうとするのが目に見えている。


 そんな答えの出ない口論など時間の無駄でしかないだろう。


 まぁ、それとは別にオリビアの親はその事がどれほどの事か理解している事を俺は祈るばかりである。





 そして放課後、俺の実家にオリビアの父親が訪問しており、俺と俺の父親の目の前で土下座をしていた。


 当たり前だ。 


 時に金は命よりも重い事をオリヴィアの父親は理解しているのだろう。


 それを考えれば理由はどうあれ金貨三千枚を騙し取ったような形になってしまった上に返す宛が無いのだから土下座など安いものだろう。


 むしろ『この親にしてこの子あり』というような人物ではないだけマシであると言えよう。


「今回私の息子とそちらの娘との婚約破棄の件は寝耳に水だったのだがな……どう説明してくれる?」

「そ、それに関しては我々も寝耳に水でございまして……どうやら私が使っていた印鑑を勝手に持ち出して使用し、帝城へと提出してしまったようでして……っ。で、ですので無効にする事もできますっ!! ですので、この後即座に今回の婚約破棄と、さらに別の男との婚約を無効とする依頼をさせていただきますっ!!」

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