第2話 馬鹿なのだろうか? いや、馬鹿なのだろう



 こんな、権力を使って半ば強引に、相手の意志を無視して婚約させるなどという事をして信頼関係の回復など、どう考えても無理な話だろう。


 そして、この行為から現世での俺がいかにゴミクズ野郎であるか分かって貰えただろう。


 はぁ……。これからの事を考えると憂鬱だ。学園も行きたくない。


 そんな事を思いながら俺は両親と共に朝食を取る。


 恐らく今両親に『学園に行きたくない』と言えば、なら行かなくていいと許してくれるだけでなく、行かなくても卒業できるように公爵家という権力を使ってどうにかした事だろう。


 普通に考えて学園に通っていない限り単位が取れないので卒業どころか進級すらできないのだが、それをどうにかしてしまうのが俺の両親なのである。


 そこで息子を叱るという事ができる両親であったのならば、まだ俺はまともに育ったかも知れないのに……。


 そんな事を思ったところで両親が変わる訳もなければ俺の過去も変わらないし今日が登校日から休日へと変わるわけでもないのが、思わずにはいられない。


「それでは、行ってまいります」

「いってらっしゃい、カイザルっ」

「頑張るんだぞっ」


 そして俺は両親に見送られながら、馬車で学園へと向かうのであった。





「おい、猿が来たぞっ!!」

「本当だっ!! いちゃもんつけられる前に離れようぜっ!!」


 俺が馬車から降りた瞬間聞こえてくる俺の悪口の数々。


 これで今まで、この悪口が俺に向かっていると微塵も思っていなかったのだから、如何に自分の事を過大評価していたのかが窺えてくる。


 実際は猿以下のゴミレベルであるにも関わらず、本気で俺は自分自身の事をいままで『他人の事を思い行動でき、心は優しく、正義感も強く、まさに貴族の鏡のような出来た人間である』と思っていたのだから救えない。


というか、どういう思考回路をすれば自分の事をそう思えるのか自分のことながら本当に謎である。


 というか、今まで自分が行ってきた行為をちゃんと理解できているのであれば自分の事を間違っても『他人の事を思い行動でき、心は優しく、正義感も強く、まさに貴族の鏡のような出来た人間である』などとは思わないだろう。


 というか、今思い返せば過去の自分は本気で俺の行動が正しいと思って行動していた事を思い出す。


 馬鹿なのだろうか? いや、馬鹿なのだろう。


 自分自身のことながら恥ずかし過ぎて穴に隠れてしまいたい程である。


 そんな、前世の黒歴史も霞むような俺の行為を知っている連中がいるクラスへと今から行くというのは、地獄過ぎやしませんか?

 


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