第13話 魔導都市で厨二病

 困ったことになった。


 ミキオが厨二病を患ってしまった。


 しかもミキオは実際に中学二年生ほど。


 つまりガチの厨二病だ。


 でもミキオだけならまだマシ。 


 なんとさらに悪いことに……。


「くっくっくっ、我下僕しもべたる異世界から訪れし使徒御堕終ミキオよ! 穿うがつがよい、世界を破壊せしめん終獄の炎を!」


 同じく厨二病の現地の女の子メルティンと意気投合しちゃってる。


「ふんっ、我が封印されし魔力を持ってすればかようなこと容易い。はぁぁぁぁぁぁ……! いでよ、絶対破壊炎獄魔法デスストリーム!」


 シ~ン。


 何も出ない。

 そりゃそうだ。

 ウィーアー日本人。

 魔力なんてからっきし。


「くっ……! 運のいいやつだ。今日はたまたま百年の一度の天中殺の日。だが次はこうはいかんぞ。せいぜいその『とき』が来るのを怯えながら待つことだ。くっくっくっ……」


 荒野に向かって負け惜しみを言うミキオ。

 おいおい、天中殺ってのは十二年に一回じゃなかったか?

 まぁ、そんなことはいい。


 この魔導都市とやらに来て丸二日。

 ミキオに友達が出来たわけだ。

 生贄の少女イステルの傷を癒やすにはちょうどいいだろう。

 ってことで少し逗留することにした。


 別に急ぐ旅でもないしね。

 さすがに俺もちょっとゆっくりしたい。

 その間、厨二病だろうがなんだろうが楽しくやってくれるといいよ。

 はたから見てると痛いなとは思うけど、厨二ってやってる本人は超カッコいいとおもってやってるからね。

 俺もそういう時代あったわぁ~。


 しっかし最初は小学三年生程度だったミキオが今ではもう中学二年生かぁ~。

 子どもが成長するのは早いなぁ~。

 まぁミキオは数日で五才も年取っちゃったんだけど……。


 おかげで手もかからなくなってきた。

 ミキオもそっとしといて欲しい年頃だろう。


 フランクから譲り受けた路銀にもまだ余裕がある。

 ここであと数日ゆっくりして旅の準備でも整えるとしよう。


 メルティンも可愛いしね。

 俺が見てもお似合いだと思うぜ、ミキオ!

 二人で訓練という名のデートを思う存分重ねてくれ!



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 ある日、俺が宿屋で一新した装備を並べてご機嫌になっていると。


「ぐず……」


 ミキオが半泣きで帰ってきた。


「どうした!? 喧嘩でもしたか!?」


「……メルティンのやつ、俺に黙って行っちまいやがった」


「行ったってどこに?」


「王都。冒険者になるんだって。だから俺たちの禁忌暗黒修練まほーのれんしゅうも終わりだってさ……」


「そ、そうか……」


 今までは旅してる俺達が置いていく側だった。

 けど、今後は逆に俺達が置いていかれたか。


「追うか? 回り道していけば王都に寄ることも出来るが」


「……いい。追ってこられても迷惑だろ。結局魔法なんて使えなかったし」


 スネた表情でベッドの端に体操座りするミキオ。


「そうか。別れは済ませたのか?」


「手紙が置いてあっただけ。いつもの待ち合わせ場所に」


 ぽん。


 ミキオの肩に手を置く。


 大きくなったな。

 数日前まで俺の後ろに隠れてたミキオはもういない。

 もう俺がミキオを子どもとして扱うこともないのかもしれない。


「行こうか」


「え、でもまだ数日滞在するって……」


「気が変わった。ほら、行くぞ。そもそもこんな辛気臭い奴と一緒の部屋にいるのは勘弁だ」


「んだよぉ……。誰が辛気臭ぇってんだよ……」


「あ~、くせぇくせぇ。こんな厨二都市からはとっととおさらばだ」


「なんだよ厨二都市って……」



 町外れ。

 北へと向かう道中、ミキオとメルティンが魔法の練習をしてた場所を通りかかった。


「最後にやっていくか?」


「……いい(プイッ)」


「俺が見たいんだよ。ほら、絶対破壊炎獄魔デスストリー……」


「わー! わー! わー!」


「なんだよ、恥ずかしいなら言うなよ……」


「別に恥ずかしいわけじゃ……」


「ふむ……」


 おやっさんの言葉を思い出す。


『人はいい格好見せたいと思ったら失敗するもんだ。ダサくてもみっともなくてもいい。とにかく自分のペースで自分にあったやり方を見つける。だからそのために普段の訓練をやるんだよ。何度も、何度もな』


 それをそのままミキオに伝えてみる。


「自分のやり方……か」


 スゥ──。


「実は『絶対破壊炎獄魔法デスストリーム』なんて全然ピンとこなかったんだよな。俺がピンとくるのは……」


 ミキオが天に手のひらを向ける。

 するとそこに急速にが渦巻いていく。


「わっ! わわっ……!」



 ドゥ──ン──ッ……!



 ミキオの手のひらから火球が放たれる。

 その火球は大空へと舞い上がっていき。



 パァーン……!



 と弾けた。


 花火。


 よくわからない魔法じゃなくて、おやっさんがなりたかったのは──。



『中学くらいの時には花火師に憧れててなぁ。ほら、派手じゃねぇか、花火って。ああいう風にパーンと弾けるように生きたいと思ってたんだがなぁ……。なんの因果か、こんな年まで生きさらばえちまったよ』



 花火師。

 そうだ、おやっさんは花火師になりたいって言ってたんだった。


 ミキオの体が光に包まれ、また一回り大きくなる。


「メルティン……見たかなぁ、今の花火」


 中学三年生相当に成長したミキオが、そう寂しそうに呟いた。


「あぁ、きっと見えたさ」


 少し大人になったミキオに向かって微かに微笑んでみせる。


「だと、いいなぁ……」


 遠い空を眺めて呟くミキオ。


 こうしてミキオは、この日。


 厨二病を卒業した。

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