第11話 町長殺人事件

 次に着いた街ゼニトで俺たちは逮捕された。


 なんでも前日に町長が殺害されたらしい。

 そこに得体の知れない二人組が姿を現したってんで、こうして拘束されているってわけ。


 しっかし刑事二人が逮捕ってどういう冗談だ?

 笑えない話すぎる。


 俺たちは町長の館の一室に監禁されている。

 中学一年生ほどに成長したミキオが口を開く。


「なぁ、タマ?」


「なんだ?」


「俺たちツイてなさすぎじゃないか?」


「そうか?」


「木こりのフランク、魔女のミストリア、生贄にされてたイステル、クソ勇者……で、今度はとうとう逮捕だ。俺達もここで終わりなのかなぁ」


 思春期を迎えたミキオが妙にひねた口調でこぼす。


「大丈夫だ。今までだって二人で乗り越えてこれただろ? 俺たち二人なら大丈夫なんだよ」


「んなこと言うけどよぉ~。俺、その『おやっさん』とかいうのの記憶ないし。相棒バディとかいうのもわかんね~んだよな」


「けど、とっさの時は動けてるじゃないか」


 フランクの仇の魔獣退治。

 勇者一味との対決。

 どちらもおやっさんとの往年のコンビーネーションがなければなし得ないことだった。


「それが気持ち悪いんだよなぁ……。俺の知らない俺だろ、それ? タマが俺の中に俺の知らない『おやっさん』を見てるのも気持ち悪ぃよ」


 なるほどなぁ。

 実に思春期らしい悩みだ。

 要するに。


『本当の僕を見て!』


 ってやつだな。

 自己形成のために必要な時期ではあるんだけど、あいにくここは異世界で、ミキオは過去の心残りを成就するたびに成長する。

 おまけに今は濡れ衣を着せられ拘束中。

 申し訳ないがミキオの思春期に付き合ってる暇も人格形成を見守ってる時間もない。


「ミキオは過去の記憶を失ってるからな。きっと、旅をして記憶を取り戻していけばそれも受け入れられるよ」


「そんなもんかなぁ」


「あぁ、人間ってのは過去の積み重ねの上に成り立ってるんだ。そこが今すっぽりと抜け落ちてるから足元がグラグラしてて不安なんだな。大丈夫。ミキオはきっと過去の記憶も思い出して地に足ついて生きていけるよ」


「……だといいけど」


 人間ってのは過去の積み重ね。

 これも俺が過去、おやっさんに言われた言葉なんだよな。

 それを今は俺がおやっさんに言ってるんだからなんだか不思議な気分だ。


「あ? タマなに笑ってんだよ?」


「笑ってない」


「笑ってた。ほんとは馬鹿にしてんじゃないのか?」


「そんなことないって」


 と、たわいもない言い合いをしていると。


 ガチャ。


 扉が開かれた。

 現れたのは街の衛兵と。


「ごくり……」


 ミキオの生つばを飲む音が聞こえる。

 なぜなら。

 とてつもなく妖艶な香を纏った女性。

 ぴったりと体に張り付いた衣服を纏った豊満な肉体を誇示した女性。

 それが部屋に入ってきたのだから。


「町長のご夫人だ。これから彼女がお前らを取り調べる。嘘偽りなく正直に話すように」


 決めつけはよくない。

 決めつけはよくないが、俺の刑事の勘がビンビンにビンビン。


(あ~……こりゃ『悪女』だ)


 直感に従うおやっさんだったら真っ先に犯人ホシと断定して調査を進めてただろう。

 んで、俺がそれをいさめて客観的な検証から入るってのがいつものパターン。

 さぁ。

 こっちのおやっさんミキオはどんなふうかね……。


 そう思って隣のミキオを見ると。


 

 


 嗚呼……思春期……。


 もしかしたら、俺たちは中一の性欲が原因で死ぬかもしれんね……。

 そんなことを考えながら、俺は頭を捻ってこの冤罪を晴らす方法を考えていた。

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