第2話 おやっさん、成長!?

 子供の体力は無尽蔵。


 一緒に行動してるとほんとに驚かされる。


 おやっさん──ミキオは森の中をずんずん進んでいく。


 昭和。


 マジでそんな感じ。


 自然や山もなんのその的な?


 ったく、こちとら公園から遊具すら撤去されてた世代だっての。

 ついていけね~って……。


『タマは軟弱すぎる!』


 おやっさんの言葉が頭をよぎる。


『俺の若い頃はなぁ、暇さえありゃ野山を駆け回っとったもんだ』


 うん、たしかに駆け回ってるね。

 今、まさに俺の目の前で……。


「お~い、あんまり一人で先行くなよ~」


「へ~んだ! 兄ちゃんがトロいんだろ~が!」


 イラッ。


「そんなこと言って~、なにか起きても助けてやんねぇからな~」


「大丈夫だよ~っと! そんな危険な目になんか……どぅわっ!?」


「どうした!?」


 シュババッ!


 ミキオがダッシュで戻ってきて俺の後ろに隠れる。

 あんなにイキってたくせに、ここまで堂々と他人に頼れるのすごい。

 なんだ、ちょっとかわいい部分もあるじゃないか。

 ザ・子供。

 俺の背から覗くいがぐり頭が。

 俺のネクタイの先っちょくらいの位置で微かに震えてる。


「犬……いや狼がいるって!」


「狼?」


 見るとたしかに木の陰に牙を向いて静かに唸ってる狼がいる。

 一匹。

 腹を空かせてるのか?

 それとも縄張り?

 にしても。

 こりゃますます異世界感が出てきたなぁ。

 日本で狼なんかまず会わんからね。


 とりあえず。

 ポイッ。

 っと、人類最大の発明「投石」をお見舞いする。

 とはいえ牽制程度。

 これで逃げてくれたらいいんだが……。


「グゥルルル……」


 あらま、逆に警戒を強めた模様。

 どうしましょうかね……。

 俺は上着を脱いでぐるぐると腕に巻き付ける。


(漫画なんかだとこれに噛ませたりしてるけど……)


 大丈夫か? 狂犬病とか?

 っていうか異世界にもあるのか、狂犬病?

 なんて思ってると。


 ポイっ。ポイっ。


 ミキオが俺の真似をして石を投げている。


 しかもへたくそ。


「グルルル!」


 あら、狼さん怒っちゃったじゃん。

 ミキオのへたくそ投石が煽っちゃったな。


 ったく、昭和のクソガキならみんな野球とかやってたんじゃないのか?


 って……ん?


 野球……?


 そういや言ってたな、おやっさん。


『子供の時野球チームでエースだったんだよ。でもなぁ、左利きを無理やり右に矯正されて駄目になってなぁ……。あのまま左で投げ続けてたら、今頃は大リーグにでも行ってたかもしれねぇんだが』


「そうだったら俺も今頃おやっさんに絞られちゃないですね」


『ははっ……かもな』


 そうだ。

 おやっさんは左利きを矯正したことを悔いてた。


「ミキオくん」


「な、なんだよ、兄ちゃん!?」


「左で投げてみて」


「ひ、左? でも左利きは行儀が悪いからやめなさいって言われて……あれ……? 誰に言われたんだっけ……?」


 ああ、やっぱりおやっさんだよ、これ。


「ミキオくん、いいんだ、左で。左利きでいいんだ。行儀も悪くない。キミは左でなら──」


 ピュッ──!


「大リーグだって狙えるんだから」


 ミキオの投げた小石が狼の額を捉える。


「キャンキャンッ──!」


 思わぬ一撃を食らった狼が情けない声を上げて逃げ去っていく。


「やった! やったよ、兄ちゃん! ってか、なんで俺が左利きだって知ってたんだ!?」


「言っただろ? 俺はキミの相棒バディだったんだよ」


「ばでぃ~? なんだよそれぇ~?」


「まぁ、いずれわかる……さ?」


 光ってる。

 おやっさんのお守りが。

 その光に包まれて。

 ミキオが……。


「ちょっ!? わっ!? なにこれ!?」


 少し。


 背が伸びた。


 ……ん?


 ……へ?


 これって……。


 成長した……ってこと?

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