11.囲まれた!

 いろいろ寄り道したというか、全力で落とし穴に突っ込んだせいで本道からそれたが、もともとはレベリングをしていたはずだ。


「で、装備を揃えようとしたんだよな」


 ただこれは保留にしようと思っている。前も言ったが、低レベルのころは適正な武器がどんどん変わっていってしまう。それでもレベリング効率との天秤で買ったほうがメリットが大きいと判断していたのだが、この仮面のおかげで攻撃力の底上げができた。となればレベルアップが緩やかになるあたりまで、あるいはその手前で攻撃力の不足を感じるまでは原型武器のままで行ってみようかと思い始ている。


「というか武器をいちいち買い替えるのがめんどくさい」


 といわけでレベリングのほうへ復帰したいのだが、森に戻るのか別のフィールドへと行くか迷いどころだ。


「森はもともと余裕だったから、今だと効率的にはよくない。でも多分あの森は奥へ行くほど難易度が上がるタイプっぽいしなぁ」


 俺はそこまでコンプリート欲というか、マップを埋めきらなきゃみたいな衝動はないが、明らかにまだまだ要素が残ってるのに攻略を切り上げるのも気持ち悪い。何の事かといえば、ゴブリンだ。あれはやっぱり森の奥まで行ったことで出てきったぽい。


「となると別のモンスターもいそうだよな。オークとオーガとかも居るかもしれん」


 せっかくだから、一度くらいは戦ってみたい。まぁいないならいないでいいさ。レベル1個上げるのにそう何時間もかからんだろうし。


「じゃ、森行ってレベル10にしていったん休憩って感じかな」


 なんだかんだもうプレイ時間が4時間を超えている。連続6時間プレイの警告が出る前に帰ってこれるようにしよう。


「あっぶね!」


 飛んできた礫を咄嗟に回避する。


 森の奥まで来た俺はゴブリンの集団と戦闘していた。もともとは2匹だったのだが、一匹を不意打ちで倒した直後、残りの1匹が笛を吹いたことでぞろぞろと仲間が現れ、5対1で戦う羽目になってしまった。


「思ったより回避デバフがきつい」


 アルキミの仮面の”防御補正・マイナス・小”は防御行動すべてにマイナスの補正がかかる。デバフの倍率自体はそこまで多きものではないらしく、少し動きが遅く感じる程度なのだが、直前までの動きと回避しようとした瞬間の動きが違うというのが、想像以上に面倒な感じだ。


「ゴブリンの体力が少なくて助かった」


「仲間を呼ぶ」なんてやってくる以上、個体としてのゴブリンはすこぶる弱い。攻撃は直線的でデバフがあっても簡単によけられる。

 と思っていたのだが、飛び道具なんぞ使ってきやがった。遠距離攻撃はこっちが使う分には一方的に攻撃できていいのだが、相手が使うといつ攻撃が来るか意識を割かなきゃいけなくて面倒なんだ。


「先に死ね!」


 素早く【ウォーターボール】を発生させ、こちらから距離をとっていたゴブリンへと向かわせる。一撃で遠距離ゴブリンを倒した後は、こちらへと向かってくる武器ナイフ持ちのゴブリン4匹を近づかせる前に終わらせる。アーツなしでも20mぐらいなら当てられるようになってきた。スキルのパッシブの補正に身を任せる感覚に慣れてきたおかげだ。


「ゴブリンのドロップはショボいんだな」


 戦闘が終わってドロップを確認する。なんだこの『刃こぼれした石のナイフ』って。何をどうすればいいんだ。


「まぁ肉とか落とされても困るけど…」


 ゴブリンの肉とか食いたくない。


「しかし仲間を呼ぶってのはいいね、レベリング的には利用しがいのある性質だ」


 5対ぐらいなら余裕で対応できることが分かった以上、存分に利用させてもらう。


 なんて調子に乗ったのがよくなかったのかな。


「ちょ、まっ!」


 現在、20匹のゴブリンに囲まれております。いや、あの3匹は明らかに体格がいいしホブゴブリンとかそういうのか?


「くっそ、いきなり呼ぶ数増えるとか聞いてないが!?」


 最初は順調だったんだ。適当にゴブリンを探し出して、一匹以外倒して、仲間を呼んだらまた一匹だけ残して。5回目ぐらいまでは呼ぶ数も5匹ずつで楽だったんだが、6回目に10匹呼んで。やばいと思って速攻で倒そうとしてたんだが、ちょうど魔術がCT中なせいで火力が足りず、もう一度呼ばれ残った5匹と呼ばれた15匹の計20匹を相手取っている。


「相手の攻撃は対して痛くない、とはいえ同時に来られるときつい」


 囲まれてる状況で無被弾は叶わず、数発かすったが大したダメージにはなっていない。問題は、その攻撃の数だろう。回避している間は当然、攻撃はできない。アーツや魔術ならそれなり隙なく攻撃できるのだが、CTがあるので倒しきる前にまた仲間を呼ばれる可能性がある。


「手数を増やす方法はあるが……」


 簡単だ。新しいスキルをとればいい。ちょうどいいことに俺は、ついさっき〈魔術・弓〉なんて素敵スキルをとれるようになったんだ。こんな状況になる前にとっておくべきに見えるだろうが、待ってほしい。習得を躊躇っているのにも理由がある。一つはMPの問題。魔術である以上これもMPを使うだろう。仮面のおかげで多少MPが増えたところで、MPが足りることはないだろう。そしてもう一つ。このスキル5SPも要求するんだよ。たっかいんだよ!いや、明らかに上位っぽいスキルだからしょうがないんだけど、いきなり消費SP5が倍は躊躇うって。


「だが、背に腹は代えられない、か」


 とヒロイックなセリフを吐くことで自分を納得させつつ、思考操作でスキルの獲得をしていく。ついでに〈MP増強〉もとってしまおう。こっちは1SPだ。相対的に安い。


「相対的に安いってなんだ」


 自分の思考に突っ込みを入れつつ、すぐに使えるようになった魔術を確認する。


【マジックアロー:水】


 ウォーターアローではなかったらしい。表記的に火魔法を習得した後は【マジックアロー:火】とかになる感じか。


「ていうか想像通り、MPがえぐい持ってかれるな」


 ウォーターボールの1.5倍。手動でやる分の手間賃と考えれば安いだろうか。とはいえ乱射はできない。威力は、ホブ相手でも一発KO。強いのかわからんな。


「ともかく次の援軍が呼ばれる前に片をつける!」


 そういって新たな力を得た俺はゴブリンの群れへと向かっていくのだった。

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