9.とても怪しい店主。あと頭がおかしい客
明らかに怪しいですよといった風体の男のNPCが広げている露店がある。店構えは他と大差ないのだが、出している商品が違う。どうにも見た目がいい。
こういうゲームにおいて、性能と見た目はある程度関連する。強そうな見た目の装備は実際強いし、弱い装備は弱そうな見た目をしている。
初心者の街で売っているよな、それもこんな路地裏に並ぶ装備なんてのは基本的に木を削っただけとか、一切装飾がない、あるいは逆に後から見た目だけの装飾をしたせいでバランスが悪いみたいな装備が多い。なのにこの店に並んでるのは人の目ぐらいの大きさのある宝石や精巧に彫られた何かのモンスターの置物、無地ながら視線を引き付ける仮面といった明らかに良いアクセサリーが並んでいるのだ。
「なんだ兄ちゃん、こいつらが気になるのかい?」
怪しげな店主が、見た目通り怪しげな口調で、怪しげなセリフを投げかけてきた。ここまで怪しいと逆に似合いすぎて怪しくないかもと思うほど怪しい。
「ああ、ほかの店と比べて明らかにいい品だからな」
「そりゃそうさ、こいつらは漂流物なんだよ」
「漂流?」
「なんだ兄ちゃん、知らないのか?あれか?最近、話題になってる異邦人ってやつか」
異邦人。たしかNPCがプレイヤーを呼ぶときに使う呼称のひとつだ。
「ああ、まさに今日来た新参者だ」
「それじゃ知らないのもむりねぇ。漂流物ってのは、まぁ要は売れ残り品のことだ。売れ残りなんていうと印象が悪いからかっこよく言い換えたのさ」
「売れ残り……つまり訳ありって感じか?」
「その通り!といっても別に重大な欠陥があるってのは少ねぇ。作ってみたはいいが他より性能がよくない失敗作や本来つくはずのないバッドステータスがついちまったダンジョンの出土品とかな。現地だと使いようのない不良品扱いだが、ここ王都みたいに比較的安全な場所でなら売れたりするんだよ。それに見た目だけはいいから、装飾品として買ってくやつもいるしな」
なるほど。確かに性能を見ればステータス上昇以外に”耐久値減少”や”ATKマイナス”といったバッドステータスがついているのがちらほらある。そしてそれらは今の俺からすると十分実用に堪える代物だ。
「とはいえ、そこまで飛びぬけていいものがあるわけでもないな」
「そりゃ兄ちゃん、漂流物っていうぐらいだからこいつらは流れ流れてここにたどり着くんだ。いいもんがあったら途中で買われてく。せいぜい2つ3つ街を超える程度がせいぜいだよ」
「そういうもんか。ん?なぁ、この仮面はどういう品なんだ」
俺は不意に一番端においてあった無地の白い仮面に視線を向けた。これだけが唯一、見ただけで性能を確認することができなかった。たぶん、鑑定とかに類するスキルが必要なのだろうが、ともかくそんなスキルが必要な装備があるというのが重要だ。明らかに高性能な装備だろう。
「あー、その仮面はなぁ」
今まで立て板に水だった店主が言葉を詰まらせる。
「まぁなんていうか、重大な欠陥がある品ってやつでな?呪われてるんだよ」
呪い。ここでいう呪いとは、呪術的にどうこうといったものではなく、装備の効果として呪いがあるのだろう。
「これが発掘されたのは南西にずっと行ったとこの、連合のなかの1国にあるダンジョンなんだけどな、これを鑑定した奴らが鑑定が通らねぇ、呪われてることしかわかんねぇって言いだしたらしいんだよ。明らかにほかの出土品とは違うし絶対なんかあると思ってどんどん高名な鑑定士が集まってきたのに結果は変わらず」
南西の連合といえば現在のプレイヤーの最前線のひとつだったはずだ。そのレベルのダンジョンの出土品ながら初心者の街まで流れるってよほど不人気なんだな。
「呪いが原因で鑑定が通らないんじゃないかって話になったんで、解呪をするためにあたりで一番偉いっていう司祭様のとこまでもってったんだけど、呪いのほうが強くて解呪が弾かれたっていうじゃねぇか。そんなレベルの呪いとなるともう、聖女様ぐらいしか解けねぇっつうんで、誰もつけようってやつが現れずついにこの王都まで流れ着いたってわけさ」
「ふーん。でもそのレベルで強い装備なら一人ぐらいつける奴が出てもおかしくない気がするけどな」
「あ?そんなわけねぇだろ……あぁ、そういば兄ちゃん今日ここに来たって言ってたな。なら知らねぇのも無理ねぇ。あのな、呪いのアクセサリーってのは外せねぇんだ。なんせ壊れねぇからな」
?あ。ああ!なるほど。
呪いの装備が外れないっていうのは常識だが、それをはず方法は一般的なゲームだと3つある。一つはアイテムを使った解呪。もう一つにNPCやプレイヤーのスキルによる解呪。最後に、耐久値の全損による消滅。
店主の話的にこのゲームには少なくともスキルによる解呪と全損による方法があるらしい。で、この仮面の場合だが、スキルによる解呪は弾かれた。少なくとも今の最前線のひとつの最高位の司祭が解けない。
そしてアクセサリーは基本耐久値が設定されていない。なので全損による消滅も期待できない。
つまり、一度この仮面をつけてしまうと、それこそ聖女様とやらのところに行かない限り取れなくなるらしい。こっわ。
「はぁそりゃ売れ残るわけだ。ていうかこんなもん売ってても誰も買わないんんじゃないのか?」
「装備品として置いてるわけじゃねぇよ。ほらこの仮面見た目だけはいいだろ?だから置物として奇特な貴族様とか豪商とかが買ってくれねぇかなと思って仕入れたんだが、こんな危ないもん家に置いておけるかってんで誰も買わねぇんだわ。何なら兄ちゃん買ってくか?今なら5000でかえるぜ?」
「いやそんな怖いもん買うわけ……いや、3000でなら買わなくもないぞ」
「待て待てさすがに仕入れ値以下じゃ売れねえよ。4000だ。仕入れ値ぴったり、これ以下はさすがに勘弁してくれ」
仕入れの時点で4000AGだったのか。多分めちゃくちゃ安いんだろうな。
「それでいい。これで4000だ」
「まいど!いやーずっと売れ残っててどうしよもなかったんだよ。ありがとな。にしても兄ちゃん。俺が言うのもなんだがそんなかめんどうするんだよ?今日来たってんなら、それ飾る家なんて持ってねぇだろ?」
心配そうな雰囲気を出してそんなことを聞いてくる。この店主、風体は怪しいけど商品の説明は誠実だし、もしかして怪しいだけのまじめな人なのか?
「装備品を買ってやることなんて決まってるだろ」
「は?兄ちゃん、まさか」
店主の話で気になったのが、これが出土したときの話だ。
『明らかにほかの出土品とは違うし』
そう”明らかに”違うのだ。単に呪われているだけならそんな表現しないだろ。となると、この仮面、ユニークかそれに準ずるようなレアアイテムくさいんだよ。
そうでなくても相当強いのは間違いない。最悪の最悪、聖女様のところに行けば解けるっていうなら問題ない。それはそれでプレイの目的ができていい。
「まてまてまて、兄ちゃん。ほんとにそいつの呪いはやばいんだって。外せないだけじゃないかもしれないんだよ!どんな不都合があるかわかったもんじゃねぇんだ!」
店主が全力で止めてくる。やっぱこの人やさしいな。別に売ってしまった後のことなんて気にする必要もないだろうに。
「その分、強い効果がついてるかもだろ?どうせ死ぬってわけじゃないんだ。こういうリスクをとってこそのプレイヤーだぜ」
仮面を顔に近づける。
『未鑑定品を装備しようとしています。危険ですが本当に装備しますか?』
アナウンスも止めてくる。さすがにこんな装備があって警告なしってわけはないか。
「イエス」
『
『呪いが発動しました』
『装備の変更ができなくなりました』
『呪い・共生が発動しました』
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