8.自分の才能は過小評価しがち

「うーん……」


 一通り情報を出し終えた俺の前に険しい顔をしたカレンがいた。


「なにか情報に不足があったか?」


「情報に不備はないよ。どっちかっていうとその内容のほうが問題だね」


 問題?なんだろう、問題らしい問題は思いつかないが。


「まずスキル自体の情報なんだけど、思ったよりも高くならないかも」


 なんと。性能はそんなに悪くないと思っていたけど、高レベルだともっといいスキルがあるのだろうか。


「想定より弱かったか?」


「ううん、性能は申し分ないよ。実際にどんな魔術が乗せられるのかとか、消費MPとか確かめなきゃいけないことはたくさんあるけど、さっきも言ったけど魔術とアーツの複合ってだけで十分価値があるからね」


「じゃあ何が問題なんだ?」


「条件のほうだね」


「?そんなに複雑な条件でもないだろ。価値が下がるほどの問題があるか?」


「うーん、こういうのってできる人に言ってもわかってもらえないかもしれないんだけど……魔術の変形って言ったっけ?それって誰でもできる技術じゃないよね」


 あー。そう言われればそうかもしれない。俺は昔、そういうコンセプトのゲームをやっていたのでやり方がわかったが、あのゲームも操作難が理由であんまり売れなかったらしい。練習すればそんなに難しくないと思うが、こういう系の技術ってできる人とできない人できっぱり分かれるからなぁ。


「なるほど、確かに全員がいきなりできるわけじゃないな」


「でしょ。あとその魔術の変形ってのも問題なんだよね」


 さらに問題があるらしい。


「まぁこれはスキルとは関係ないんだけどね。とあるプレイヤーがやり方を隠している技術で魔術のカスタマイズってのがあるんだけど、多分おんなじ技術だよね」


 俺はそのプレイヤーを知らないので正確には言えないが、多分そうだろう。魔術の変形と表現してはいるが球に回転をかけて曲げたりもしたのでカスタマイズといったほうが正確なきもするし。


「そのプレイヤーが秘匿して技術がいきなりわかってしまって扱いに困るって感じか?」


「そうなんだよねー。彼、そこそこ最前線でも活躍できるトッププレイヤーだから、変な軋轢とか生みたくないし。でもこのスキルのことを説明するのにこの技術を避けてはできないしで」


 うわー、めんどくせー。


「ああ、それを理由に値段を下げたりはしないから安心していいよ」


「それはよかった」


 と返したが、どっちかというとその何某とかいうトッププレイヤーに目を付けられないかのほうが心配だ。


「で、支払いなんだけど、今一括で100k払って、あとで残りの清算をするって形でいいんだよね」


「ああ」


 今いきなり10Mを払うのはさすがに無理らしい。クランの金庫にはそのぐらい余裕であるのだが、カレンの権限では引き出せないので報告ののち払われるそうだ。


「払えるようになったときは連絡を、ってそういえばフレンド登録まだしてなかったね」


 そういえば忘れてた。もともとカレンに声をかけられたのはそのためだったはずだ。


「まずUIからメニューを開いてフレンド一覧を選択して…」


 カレンの説明に従ってフレンド登録を済ませる。


「フレンド機能で通知が飛ばせるのと、ギルドまで行けばメッセージが利用できるから、用があったらそこから連絡してね」


「わかった」


 フレンド欄にはカレンの名前とともにレベル81という表示がある。前線のプレイヤーはこのレベルなのか。なかなか遠いな。


「今日は6時くらいまでは事務所にいると思うから、何かあったら直接来てくれてもいいよ」


「そんなポンポン売れる情報が出たりはしないけどな」


「買う側でもいいんだよ?」


 そっちのほうが現実的か。まだまだ右も左も知らない初心者だし、何かあったら存分に甘えさせてもらおう。


「じゃあ、また」


「またね。一週間以内には支払いの連絡がいくと思うから」


 そういって俺は事務所を後にした。


 さてこれからどうするか。もとはレベリングをしていたわけだが、状況が変わった。具体的には大金が手に入ったおかげで、装備が整えられるようになった。となればやるべきことは装備のアップグレードであろう。装備がよくなればより効率的にレベリングができるというものだ。


 とはいえ、プレイヤーメイドの良い装備を買うというのはまだ早いだろう。今の俺は一気にレベルアップしてステータスが伸びまくるいわば成長期である。成長のたびに装備制限は緩和され、次々とアップグレードを繰り返す時期であり、そんな時期にプレイヤーメイドの武器をいちいち作り直していてはいくら大金があるといってもすぐ底をつく。


 なので向かうべきは、NPCの量産品やプレイヤー製でも試作品や品質が微妙なものがならぶような市場である。そしてそういう場所は最初に街を回った時にすでに見つけてある。あのゆがんだ弓がおいてあった場所だ。あそこなら手ごろで買い替えやすい武器を見繕えるだろう。


 市場に並んだ弓の数値上の性能と使い心地をチェックしていく。


「うーん、数値上の性能はいいんだけど、装飾過剰だったりバランスが悪いみたいなのが多いなぁ」


 できればそういうのは選びたくない。結局、どれだけATKの値がよくても当たらなければ意味がないし、構えに変な癖がついてしまうのは避けたい。


「こっちに来たのは失敗だったか?」


 これなら普通にプレイヤーなりNPCの店で適当な弓を買ったほうが早い気がしてきた。でもこっから武器工房エリアまでって微妙に遠いんだよなぁ。

 しょうがない、まずはこっちで探してみてどうしてもなければ素直に店で買うか。


 そう考えて市場を物色していく。目立つ店の商品を一通りみて微妙なものしかないことを確認して、次は路地へ少し入ったあたりで屋台も立てず露店が広がってるエリアへと入る。しかしこちらもアクセサリーのような小物が中心で、弓を置いてあるような店はなかった。もうこっちで買うのはあきらめるかと思い始めたところで、気になる店が目に入った。

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