4.Let’s enjoy leveling

今の2連戦でわかったことだが、現状俺に足りないのは2つ。ひとつは近距離用の戦闘手段。遠距離主体といっても距離を詰められれば近距離戦闘をすることもある。というかこれ自体は最初から分かっていたんだから、先にそれ用のスキルをとっておくべきだった。さっきの戦闘も、近づかれる前に倒せたからよいものの、外してたら結構危なかったかもしれない。浮かれて忘れてたな。反省だ。


もう一つは索敵手段。命中させるだけなら、もっと遠くでも出来た。アーツを使えば倍ぐらいの距離でも当てられただろう。遠距離攻撃の最大の利点は一方的な攻撃レンジだ。つまりいかに早く敵を見つけられるかというのは非常に重要だ。リス相手に先に見つかってるようではだめだ。


「短剣術と、あと魔法も先にとっておくか」


2ポイント支払って初級〈剣術:短剣〉と初級〈魔術:水〉を習得する。


近距離スキルはあくまで予備として、取り回しやすく個人的に一番扱いやすい短剣、魔術は物理攻撃が通りづらい相手が出ることを想定して取った。こういうスキルシステムの場合、スキルを使い続けることを条件に上位のスキルが発生したりすることも多いので早めにとっておいたほうがいいという判断だ。属性は、一番汎用性が高いイメージの水にしたが、SPに余裕があれば他の属性もとっておきたい。魔法しか効かないくせに、特定の属性にも耐性があるみたいなクソモンスはどんなゲームにでもいるものだ。一属性だと心もとない。そういう時はパーティを組んだり、アイテムで対処したりするのが定石なんだろうが、まぁ普通に魔法を使ってみたい気持ちもあるので問題ない。こういうのは楽しそうなほうを選択するんだ、攻撃スキル3つ持ちとか器用貧乏まっしぐらだとかは考えない。万能になりゃいいんだよ!


「索敵スキルはどうするかなぁ」


候補は2つ。〈広角視野〉と〈狩人の目〉だ。単純に遠くの敵を見つけるという目的なら〈狩人の目〉のほうが合っている。〈広角視野〉は読んで字のごとく視野が広がる。どの程度広がるかわからないが、単純に警戒範囲が広がるというのは、かなり大きい。


「できれば両方取りたいけど、両方とも2SP要求してくるんだよなぁ」


いままでに使ったのが3SP元が5SPなので残りは2SP……あれ、5SPある。


スキル一覧のウィンドウの右上に”残5SP”と表示されているのを確認する。計算が合わない。となるとどこかでSPを獲得したということか。


心あたりはある。レベルアップしたときだろう。あとチュートリアルでももらった可能性がある。もとの5ポイントもチュートリアルの報酬だ。


「スキル習得のクエストの報酬で1ポイントもらってるな」


つまりSPはレベルアップとクエストの報酬などでもらえるということだ。レベルアップは1レベルごと2ポイントかな。この先、もらえるポイントが増えるのかどうかはさすがに調べておきたいな。試行錯誤の楽しみが減ると思って、システム的な部分はあんまり調べてこなかったが、これはさすがに知っておかないとどんなスキルをとるかの計画が立てづらい。


ともかく、スキルを得るためにもレベルを上げる必要があることが分かったから、今獲得したスキルの試運転がてら10レベルまでは上げてしまうこととしよう。


とそのまえに〈広角視野〉と〈狩人の目〉もとっておく。レベリングの効率的にも、索敵能力は必須だ。


「さぁて、楽しい楽しいレベリングの時間だ」



……


………


レベリング開始から3時間。当方、現在レベル8。


戦闘が楽しくてつい3時間ぶっ続けでやってしまった。特に魔術が楽しい。初級の時点では基本の【ウォータボール】しか使えないのだが、それでも十分遊べた。なんとこいつ単に水を打ち出すだけでなく、打ち出す前に近くで停滞させたり、形を変えて流線形にして速度を上げたり、回転を掛けることで曲がらせたりできるのだ。昔似たようなことができるゲームにはまりまくったことがあったので、その懐かしさとそのゲーム以上の自由度と動かしやすさへの感動でいろいろ試してしまった。


このまま魔法職を極めようかとも思ったのだが、それはそれで問題もあった。MPが足りん。本来はスキルの中にある〈MP増強〉や〈魔法適正〉といったパッシブスキルをとることで解決していくのだろうが、俺の場合ソロでやる以上あんまり特化させられない。魔法職特化のソロプレイは戦闘IQが高くないとやってられない。詠唱時間を管理して、敵との間合いを取って、優先順位をつけて戦闘の流れを組み上げる。それを隙なく行う自信はさすがにない。


「孤高の魔術師的なロールプレイも中二心がくすぐられて楽しそうなんだけど。残念」


ちなみに魔術はMPを使うことと連射性以外は弓の上位互換というのが使ってみた感想だ。威力は、レベルが上がったのもあって、弓でも魔法でも全部1撃なので正確なことは言えないが、設定されたCTクールタイム的に魔術のほうが上だろう。さらに射程に関しても、【ウォーターボール】の時点で敵を追尾した。緑リス(正式名称は”グリーンスクワロル”、まんま緑リスだった)に撃った時は、狙いがそれたにもかかわらず曲線を描いて緑リスグリーンスクワロルに向かっていった。基本の魔術でこれなのだから、魔術はデフォルトでホーミングがついていると考えていいだろう。


これだけ強くて魔術一強でないのは、MPの燃費とCTクールタイムの長さのせいだろう。MPが尽きるか、CT中で魔術が打てなくなったら、魔術職なんてのはもろいだけの案山子になる。魔術の使いどころはよく考えたほうがいいだろう。


短剣スキルのほうは特に言うことはない。短剣を装備するとモーションアシストがついて使いやすくなるし、アーツの【切り払い】は〈剣術〉スキル共通で習得できる、切り払うためのすきるだ。強いて言えば、短剣だけはまだ一撃で敵を倒せないということぐらいだろうか。手数で稼ぐタイプの武器なので当然といえば当然だが。


あと追加でスキルを2つ習得した。〈STR増強〉と〈DEX増強〉だ。効果は読んで字のごとくパッシブスキルで、コストも1SPずつとやすい。こういうスキルがあるので、序盤はステータスポイントよりスキルにSPをつぎ込んだほうがいいとされているのだ。ちなみに効果は、1SP相当という感じで実感できるほどではなかった。弓系スキルの定番としてSTRが威力、DEXは射程や命中にかかわるだろうと考えて取ったのだが、そもそもどっちもこの森ではオーバー気味なのですぐに意味があるものではない。ちなみに数値の上では取得の前後で1ずつ上がっているだけだった。今後も影響を与え続けることを考えれば無駄になることはないだろう。


ともあれレベル8になった。最初のレベルアップは経験値の要求量が少なかったのと、それまでの行動でたまっていたのが原因らしく、それ以降はそこそこ時間がかかった。というか戦闘以外でも経験値はたまるらしい。


この3時間、MPがある間は魔術で、なくなったら弓でたまに練習がてら短剣で敵を屠り、戦闘と戦闘の間は草をむしったり枝を拾ったりと採集をしていたのだが、短剣を振って枝を集めていた時に唐突にレベルアップしたのだ。一瞬、今切った気がトレント的なモンスターだったかと身構えたが、そんなことはなく。まず間違いなく採集で経験値を得てレベルアップしたと考えていいだろう。


「考えてみれば当たり前か。生産系のジョブもあるんだから、採集とか料理とかでも経験値が入らなきゃおかしいよな」


最近は戦闘系のゲームばかりやっていたから強くなる=敵を倒すみたいな思考をしすぎてしまった。


「うーん残り2レベルなんだけど、空腹値も上がってきたし矢もかなり消耗したし、そろそろ街に一時帰還したほうがいいかな」


でもなぁ、そろそろこの森にも人が流れてきそうなんだよなぁ。途中で一回プレイヤーっぽい人影が見えたし、この森の広さでかち合うレベルだと考えると、すでに相当入ってきている可能性がある。


「倒した数的にもう少しでレベルアップしそうだし、いったんレベル9までしてから帰るか。あと一つ試してみたいことがあるし」


そういって俺は索敵を再開する。最初と比べて、敵のいそうな場所がなんとなくわかるようになり、ものの数秒で新たなモンスターを発見した。


「あれは、ゴブリンか?このゲームは初めて見たな」


時間帯の変化か森の奥に入ってエリアが変わったのか、発見したモンスターは今までにあったことのないものだった。緑色の肌に異様な鷲鼻、貧相な体つきのまさにゴブリン!という感じの見た目のモンスターがそこにはいた。


「今までのは小動物って感じでモンスター感がなかったけど、ついにモンスターらしいモンスターが出たな」


さて、新しいモンスターが相手だとまず強さを見たさもあるが、先に試したいことを終わらせてしまおう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る