3.はじめての2連戦

さて森に到着したわけだが、予想通りこっちまで来ると人はまばらで、フィールドも十分広いのでモンスターの取り合いになることもないだろう。というか、王都も平原も十分広いのに、それでもごった返すレベルで人がいるのがおかしいのだ。


「といっても、今平原にいるやつらも順次こっちに来ることになるだろうから、のんびりはできないな」


それに今いるプレイヤーだけじゃなく、今後もどんどん新規プレイヤーが入ってくるだろう。うちの高校は夏休みが早めに始まるのでまだ余裕があるが、もう数日したら本格的に夏休み組が入ってくる。そのレベルで人が来たら身動きも取れなくなる気がするが、そこまでになったら対策されるだろう。ともかく、そのレベルで混む前にとっとと王都を出て次の街、理想を言えば3つ目の街まで行きたい。王都の次の街の時点で4つのルートがあるし、次もいくつか選択肢があるのでそこまでいけば十分散るだろう。


「急かされながらプレイはしたくないけど、対人トラブルはもっと面倒だからな」


別にトラブルを起こすつもりはないが、人が多ければ不可避な場合も多い。狙ったモンスターがかち合ってだとか、流れ弾が飛んで行っただとかは、気を付けてれば回避しうるのでまだましのほうで、ただ見ていただけで因縁つけられたり、明らかに先に戦っているときに割り込まれたり。そういったモラルの悪いプレイヤーは数の問題で発生する。最悪、初心者狩りのPKとかも考えなきゃいけない。このゲームはPK、特に初狩り系をしたときのペナルティーが重いらしいので相違ないとは思うが、やるやつはどんな条件を課してもやるので油断できない。


閑話休題。ともかく目的のスキル選びを始めよう。


まず俺が目指すプレイスタイルを確認しておこう。基本は遠距離型のオールラウンダー。これが俺の目指すべきプレイスタイルだろう。なぜ遠距離主体化というと、俺がそのほうが得意、というより近距離が苦手だからだ。技術的に苦手というわけではない。ゲームによっては剣もこぶしもよくわからんマイナー武器も扱ってきたので、ある程度は扱える。ただ、至近距離で戦う場合、精神的な疲労がばかにならないのだ。特にこのアルテラみたいにリアリティーあるゲームの場合、こっちを殺す気で向かってくる狼やら熊、果ては邪神とかと至近距離で対峙することになる。ゲームだと割り切れば気にならないのだが、どうも力が入りすぎてしまう。


あと、基本ソロプレイ中心で行こうとも考えている。ひとつ前にはまってたMMOで固定パーティを組んで上位陣に突っ込んでランキングを上げるみたいなことをしていたのだが、あれは楽しいがかなりキツい。それに高校生に上がってしまったのであの時ほどゲームだけに向かえない。ゲームのし過ぎで成績を落とすのはさすがによくない。どうせ上を目指いなら、のんびり旅行気分でやろうと思ったのだ。ソロ専とまで行くつもりはないが、ある程度のことは一人でできるようになりたい。

そういう感じのスキルをとるつもりである。


「まず最初は初級〈弓術〉だな」


1SPを消費して初級〈弓術〉を習得する。習得と同時にインベントリに『弓‐原型』が入ってくる。


---


弓‐原型


ATK+1


原型シリーズの弓。あらゆる特徴をそぎ落とし、ただ弓の形をしているだけである。素材を吸収することで成長することが可能。


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これはスキルを習得すると同時にもらえる初期装備で、攻撃力が最低値で特殊効果もない代わりに、譲渡不可で不可壊つまり絶対に壊れないという特性をもった武器だ。とにもかくにも弱いのですぐに買い換えられる。ただ、一応強化もできるので、耐久管理が面倒だからと、サブの武器種では原型を使うというプレイヤーもいなくはないそうだ。強化しても特殊効果なんかはつかないらしいのでやはり弱いのだが。


「しかし攻撃力が1だけとか聞きしに勝る弱さだな。これなら途中の露店で売ってた弓でも買ったほうが良かったか?」


たしか500AGでATK+3とかあったぞ。いやでもあの弓、明らかに歪んでたんだよな。この原型は一切ゆがみがない。装飾もないし、なんなら素材ものっぺりしていてほんとに弓の形をしているだけって感じだが、逆に使いやすくはある。


「まぁこの森ぐらいなら、いきなり攻撃力不足にはならんだろ」


弓の試し打ちのためのモンスターをさがす。ここで出るのは、ネズミだったかリスだった忘れたがともかく小動物だったはずだ。地面や木の上へと視線を巡らせながら、森の中を進む。15秒ほど歩いたあたりで視界の中に動く何かをとらえる。そちらへ視線を向けると30mぐらい先に立ち上がると人の腰あたりまで届きそうな、でかいネズミがいた。こちらに背を向ける形で頭を上げて立っている。警戒態勢だろうか。


「向こうからは……まだ気づかれてないな」


まずはスキルなしで矢を当ててられるのか、どの程度ダメージが与えられるかを試したい。


弓を構える。弓道を習っているとかではないので我流だが、ゲームでならそれなりに弓を撃ってきた。それなりに合理的な構えをしていると思う。インベントリから来る途中で買ってきた矢を取り出し、つがえる。いきなりネズミの頭を狙うのは難しいだろう。なので背中の中心、心臓がありそうな場所を狙う。軽く息を吐いて、引き絞る。矢がネズミに突き刺さるイメージを頭の中で描きながら、放つ。


「ヂュっ!!!??」


放たれた矢はやや狙いからそれてネズミの左肩に命中。背後からの奇襲に悲鳴を上げたネズミはすぐさまこちらへと敵意を向けてくる。ただ、矢が肩にあたったせいか、こちらへと走ってくる速度は遅い。


このくらいの速度なら十分当てられる。もう一度矢を取り出しつがえ、引いて、放つ。こんどは上側に逸れて背中にかするように当たった。


大きなダメージは与えていないだろうが、痛みにネズミの動きが鈍る。


もう一度、矢を取り出し、10mほどの場所でひるんだネズミの今度は頭を狙って、放つ。


「ヂュゥゥゥ……」


血の代わりにダメージエフェクトをまき散らしながらネズミが断末魔を上げる。


『Lvが上がりました!』


ネズミの絶命と同時に、経験値が入ってきたのだろう。レベルアップのアナウンスが聞こえてきた。


「もうレベルアップか、序盤は一瞬で上がっていく感じだな」


周囲に他の敵がいないことを確認して、今回の戦闘の振り返りを始める。


「弓矢の挙動は癖がないというか、現実のそのままの動きって感じ。だから今までの経験で十分当てられる。ダメージもスキル、というかアーツを使わずにかすり1、命中2で落とせるなら十分実用範囲だろ」


今回、能動的にスキルを使ってはいなかったが、多分スキルによる命中補正が入っていた気がする。いくらほかのゲームでの経験があったとはいえ物理エンジンの違いもあるので、いきなり弓を充てるのは難しい。それに最後の一発は明確に頭を狙ってる感覚があった。あれは他のゲームでターゲティング系の能力を使ったときの感覚に似ている。


「で、ドロップのほうは『ジャイアントラットの皮』。あのネズミ、ジャイアントラットっていうのか」


ドロップ品は自動的にインベントリに入る仕組みらしい。ジャイアントラットの亡骸は、すでにポリゴンになって消滅していた。


「うーん、矢3本でネズミの皮1枚。これが矢より安いってことはないだろうが、矢が微妙に高いから、弓はやっぱり経済的ではないな」


それ自体は予想していたことだ。ほかのゲームでも弓系のスキルやジョブは割と不経済であることは多い。その場合、代わりに矢自体を良いものにできたりして強化の幅が大きかったりするので良し悪しあるといった感じだ。


「さて、最後にレベルアップの確認……!」


ステータス画面を開こうとしたとき、少し離れた木から物音がするのが聞こえた。


「今度はリスか」


音のほうへと意識を向けると、リアルのリスを一回り大きくして、顔つきを凶暴にした感じの緑色のリスがいた。


「さっきより的が小さいし、こっちに気づかれてるっぽいな」


距離はネズミの時より少し近いぐらいだが、いかんせんネズミに比べて当たり判定が小さい。それにすでに気づかれている以上、悠長に狙いを定める時間はないだろう。


「今度はアーツの確認だな」


そういって弓を構える。緑リスのほうも、こちらが戦闘態勢に入ったことを理解したのか。後ろ足に力を入れ、とびかかる準備をしている。この距離からこっちに飛んでこれるのか?だとしたら結構な脅威だぞ。


「【狙い撃ち】」


緑リスが木から飛び出すべく足の力を開放する直前、俺のアーツが発動する。


意識が緑リスへと収束する。体が理想的な動きへと誘導されるのに従って、流れるように矢を放つ。


アーツが発動していることを示す緑色の光をまとった矢が吸い込まれるように緑リスへと向かう。


直撃。矢は緑リスへと突き刺さり、一撃でその命を奪い去った。


「一発か。相手がもろいのか、アーツでの補正が強いのか」


両方っぽいな。自分より上の相手に撃ったにかかわらず、矢のスピードが速かった。それに、命中精度もホーミングとまではいかないが、矢が誘導されている感じがあった。


「さすがにレベルアップはしないか。ドロップは、『ラナトの実』?リス自体の素材じゃないのか」


ともかく、意外とこの森はエンカ率が高いことが分かった。検証はスキル中心にして、ステータスは帰ってからにしよう。

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